この「為替リスク」から世界で唯一解放されているのがアメリカ国民だ。「為替」は基軸通貨「ドル」を基準に上下する。加えて「ドル」は戦略物資の取引を支配している。日本の投資家がニューヨーク株式市場に投資する場合、利益は「為替」を考えながら生み出さなければならないが、アメリカ国民にはその苦労がない。「為替レート」に頭を悩ませるのは、国外への観光旅行の時くらいだろう。
ドルで資産形成する優位性もここにある。
世界最強の暴力と通貨が当たり前に存在する安心感があるからこそ、米国民は借金を恐れない。自分の収入の何倍ものローンを組んで、家や車を購入する。こうして低所得者向けの住宅ローン「サブプライム」は破綻した。それでも懲りずに名前を変えた同様のローンを生み出して利用するのだ。まさに「いったれ経済」で、それは国民性としか言いようがない。「学習しない人たち」と言い換えることもできるが……。
国家暴力の価値
新型コロナウイルスのワクチンは未曾有の速度で開発され、供給が開始された。
コロナ禍以前の「ノーマル」な価値観であれば、優先されるべきは高い信頼性が担保されたワクチンだったはずだ。しかし市民が国家に納税し、国家は市民の生命、財産など人間が自然に持っている「権利」を保障するという「社会契約」をコロナ禍は破壊した。市民に対する生命へのリスクを度外視しても、国家に対する「不信」を「信頼」に変えることが喫緊の課題となっていたということになる。
これまでであれば「横暴」とされてきたことが、許されるようになってしまったのだ。「コロナ」という暴力に対して、もはや「横暴」という「暴力」でしか対抗できない。
“国家暴力の時代”が始まったことは、イスラエルによって明らかになった。
イスラエルでは当時、首相のベンヤミン・ネタニヤフ氏がいち早く自らファイザーと蜜月の関係を構築。政府が被接種者の医療情報をファイザーに提供する代わりに、優先的なワクチン供給を勝ち取った。オックスフォード大学を拠点とする「Our World in Data」の調査によれば、2021年1月18日時点でイスラエルにおける接種率は28・02%と世界首位。2位、UAEの19・04%に大差のリードを付けていた。
1948年に中東社会の真ん中に建国したイスラエルの歴史は、中東での戦争の歴史でもある。イスラエルは資本力、軍事力、政治力などを駆使して、アラブ諸国に囲まれて国を持続してきた。情報機関「モサド」の知名度が高いように、イスラエルのパワーを支える大きな要素の一つが「情報」の収集能力と分析能力だ。