ワクチンを軸にした国際戦略
そのイスラエルが供給当初のワクチンのリスクを知らないとは思えない。イスラエルはリスクを負ってでも誰よりも早くワクチンを入手したということだ。そうまでした理由は国民の健康だけではなく、中東内の対立にある。
当然のことながらイスラエルは「ユダヤ教」だが、建国によって自国とした聖地エルサレムは、イスラム教の聖地でもある。アラブ諸国とイスラエルの遺恨の根底には、「ユダヤ教とイスラム教」の宗教対立が存在する。
特にイスラエルを憎悪しているのがイランだ。
生物兵器を使用すれば、国際社会から非難され制裁を受けることになる。だがワクチンを独占的に供給すれば、対立国内の「コロナ」を生物兵器化することができる。ワクチンはイスラエルにコロナ前の社会生活だけではなく、防衛安全保障上の高い優位性を提供した。
新型コロナウイルスが社会構造を破壊し、ワクチンの登場によって新たな社会構造が生み出されつつあるということだ。「コロナ」を暴力に転換させるワクチンは国家間のパワーバランスを変える能力を持っている。
2021年2月7日、中国国防部は、人民解放軍が中国製ワクチンをパキスタン軍とカンボジア軍に無償提供したことを発表した。すでに「ワクチン」は外交・安全保障のツールになっているということだ。今後もワクチンを軸にした国際戦略が米中間で展開されるだろう。安全保障を脅かす武器となるワクチンを自国開発しなければならない理由の一つはここにある。アメリカと中国に挟まれた日本にとっては喫緊の課題でもある。
この「暴力には暴力」の同一地平で起こったのが統治システムに対する評価の転換だと、私は考えている。それは、国家暴力を効率的に行使できる「独裁制」の再評価だ。中国、ベトナムといった共産党による一党独裁の国家が、新型コロナウイルス感染拡大をワクチンがない中でいち早く封じ込め経済回復を実現した。コロナ禍という圧倒的な暴力に対して有効なのは、国家暴力を効率的に行使できる「独裁制」であることが周知された。