「新型コロナウイルスは、投資の条件たる『信用創造』を突き崩す究極の『暴力』だった」そう語るのはマネーの表と裏を知り尽くした評論家の猫組長である。
アメリカと中国による「暴力」の応酬のはざまで、日本の〈投資家たちの取るべき態度〉とは、一体どのようなものなのか。同氏による『カルト化するマネーの新世界』(講談社)より一部抜粋して紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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資産の信用は「暴力」なしには得られない
2020年6月30日、中国政府は「香港国家安全維持法」を成立させた。これによって、香港への一国二制度は事実上終焉した。香港は世界金融センター指数でニューヨーク、ロンドンに続いて3位を維持してきた。2020年4月に6位に落ちたものの、重要な役割を担っていた。これまで中国政府は内陸地の深圳に香港の機能を移転しようとしたが、円滑とは言いがたい状況である。一党独裁の国に持ち込めば収奪されるリスクが高いからだ。「香港国家安全維持法」によって、アジアは「金融センター」を失うこととなった。
「金融センター」には「オフショア」とも呼ばれるものがあったが、それがどれほど莫大な利益をもたらすのかを知らない人は多い。「オフショア」のあるケイマン諸島にはベージュ色の5階建ての「アグランドハウス」と呼ばれる建物がある。リゾートホテルのような、この小さな建物の中に世界中の何万もの企業が存在する。すなわちペーパーカンパニーだ。
その建物の中でも私書箱「309」は三井住友銀行系をはじめ、日本の金融機関の関連会社が「同居」していた。ただし、管理人は金融の世界とは無縁の中年のご婦人だ。日々、この建物の中で兆円規模のマネーが往来していることを、座っているだけのご婦人は知らない。
莫大なマネーが動くということは、記帳代、手数料などもまた巨大になるということだ。世界銀行の発表によれば、2017~2018年の、ケイマン諸島の1人当たりの名目GDPは約64000ドル。同年のアメリカ人の約59500ドルより高い。
新冷戦構造下では香港のように「マネーの源泉」がこぼれ落ちるような事態が起こる。だが現在のままの日本では、その受け皿になることはできない。なぜか──アメリカを考えれば理解できる。
「ドル」が基軸通貨となったのは、第2次世界大戦末期の世界で一番安全なアメリカに、世界中の金地金が避難してきたからだ。アメリカ本土の安全を保障したのは世界最強の暴力「米軍」だ。
このことは資産の信用が「暴力」なしには得られないことを示している。
戦後、基軸通貨「ドル」は石油や穀物など戦略物資の決済を支配した。ドルの権益を侵す者に、アメリカは躊躇なく米軍を差し向ける。暴力がドルを守り、ドルが国富を生み、国富が暴力を維持させる──これがアメリカの成長の構図である。