「高校進学なんてどうでもええ。最初は就職するつもりやったからね。でも、落とされたっていうのは、俺の中で負けやないですか。このままでええんか、となったんです」
野球推薦を反故にされたことが、どうしても、我慢ならなかった。担任の教師のところへ行くと、あろうことか、同じ地域内にある進学校で、一流大学に多くの生徒が合格する堀川高校を受験することを告げた。驚いた担任は、学年主任と生徒指導部長ら4人を連れて、自宅を訪ねてきた。
「君の性格検査をしたところ、工業高校が向いているという判定になりました。伏見工業が合っているのではないやろうか。土木関係の仕事が似合っとるし、土木科で勉強するのはどうやろう」
父親の清司と一緒に、黙って話を聞いていた山本は、こう尋ねた。
「ほな、伏見で一番難しい学科はどこや? そんなに伏見に行かせたいなら、一番難しいところを受けたろうやないかい」
土木科から、より偏差値の高い建築科に変えたのは、せめてもの意地だった。こうして、伏見工業に願書を出すことになったのである。
だが今でも、山本の胸に、引っかかるものがある。
「担任は性格検査なんて言うてたけどね、そんなもん、やった覚えがないんですわ。ようは、『お前は堀川高校には受からへんから、伏見を受けえ』ってことを、本当は言いたかったんやろうね。でも、言われへんかったんちゃうかな。まあ、ワシも推薦を落とされた屈辱を晴らすだけやから、学校はどこでも良かったからね」
根っからの負けず嫌いだった山本は、伏見工業の建築科に合格した。
「お前が清悟か。ラグビー部に入れ!」
1976年4月。校舎のすぐ側を流れる東高瀬川に、桜の花びらが次々と落ちては、、水面に浮かんで流れていった。
入学式を終えた山本は、グラウンドの入り口にある体育教官室の前で、行く手を阻まれた。自分よりも大きな体、岩のような顔つき。教師に対して、それまで感じたことのない威圧感が漂っていた。
睨むようにして、下から視線を上げる。山口だった。
「おい、お前が清悟か。お前は、ラグビー部に入れ!」
野太い声と、選択の余地を与えない断固とした態度。何よりも、初対面の教師に呼び捨てにされたことで、無性に腹が立った。