アップリンク渋谷の閉館が発表されたが…
そして、2021年4月、アップリンク渋谷の閉館が発表される。告知文のなかで浅井氏は、「(昨年は助成金等により乗り切ったものの)今年はさすがに限界を超える状態で、再投資をしても先が見えない状況となり、閉館という決断を余儀なくされました」と説明。ハラスメントの件については、「引き続き、ハラスメントのない会社づくりに向け、社長及び従業員一同取り組んでいきます」と書くのみで、具体的な進捗については触れていない。
この問題について、映画関係者はどのような反応を示したのか。
映画監督の深田晃司氏は、告発がなされた日の夜にいち早くコメントを発表。自作の上映やトークイベントを通じてアップリンクと深くかかわってきた立場から、「ことはアップリンク、ミニシアターだけの問題ではなく、映画業界全般の信頼と労働意識、自浄能力が今問われているのだと思います」と綴った。同年10月には、深田監督の作品『本気のしるし〈劇場版〉』がアップリンク渋谷・吉祥寺・京都で公開される予定であったが、この件を受けて中止となり、〈シネ・リーブル池袋〉での公開となった。
また、同年7月にやはりアップリンク各館で配給作品『クリシャ』(2015年、トレイ・エドワード・シュルツ監督)を公開予定だった映画配給・上映団体Gucchi's Free School(グッチーズ・フリースクール)は、「ハラスメントに関する訴訟を受けて」と理由を明示したうえで同作の公開延期を決定した(それ以前にコロナの感染拡大を受けてすでに一度公開を延期している)。
公開延期を決断した理由
どのような思いで公開延期を決断したのか、代表の降矢聡さんに話を訊く。
「アップリンクにはさまざまな場面でお世話になり、元従業員の方々から告発がなされたときも、『クリシャ』の件を含め、企画のご相談などしていました。そういう立場にいる者だからこそ、早い段階で自分のスタンスを表明しておかなければならないと思ったんです。
今後、アップリンクが被害者に誠意をもって対応したとしても、おそらく問題の解決には相当の時間がかかる。被害者側が提示した取り組みがきちんとなされ、約束が果たされて初めてスタートラインに立つわけで、だとすればまだスタートラインにも立っていない段階でアップリンクと一緒に仕事をすることはできない。お客さんに対して『アップリンクさんで上映しています! 観てください!』と気持ちよく言うことができないあいだは、上映をやめようと思いました。
もちろん何年もかけて撮った映画をアップリンクで上映する予定だった作り手にしてみれば、それを引き上げるのは苦しい決断だと思います。『クリシャ』に関しては、アップリンクでしか上映が決まっていなかったため、一から仕切り直さねばならない不安はありましたが、とはいえグッチーズはいろいろな方に助けていただきつつ基本的には僕が個人でやっているので、そこまで大きな決断ではありませんでした」