実際、ハラスメント問題を受けて、降矢さんや深田監督のように公開を取りやめるケースはむしろ稀であり、多くの作り手や配給会社はアップリンクでの上映を継続した。もちろん個々の判断にはそれぞれの理由や事情があるのだろうが、上映継続の理由を公に発信する作り手や映画会社が数えるほどしかいなかったことについては疑問を感じざるをえない。
ちなみに、『クリシャ』はその後、2021年4月17日より渋谷の〈ユーロスペース〉にて公開が実現した。
メディアはこの問題をどう報道したのか
新聞や雑誌、ウェブメディアでは、どのような報道がなされたのか。
2020年6月のUWVAHの告発および記者会見については、「朝日新聞」「読売新聞」「毎日新聞」「産経新聞」といった大手紙、「シネマトゥデイ」「シネマカフェ」等のウェブメディアが事実関係を報じる記事を掲載。和解協議の合意が発表されたあとには、映画専門誌「キネマ旬報」が2021年3月下旬特別号の〈ワイド特集 映画界事件簿〉のコラムにおいて、告発から和解までの経緯を簡略にまとめ、和解後に公開されたUWVAHの声明に言及した。
これらの記事は、基本的に事実の報道に終始していたが、そんななかで、「ビジネスインサイダージャパン」「東洋経済」は、UWVAHへの独自取材もおこない、ハラスメントの具体的な内容や問題点、背後関係について具体的に考察を加える記事を公開している。
アップリンク渋谷の閉館については、「朝日新聞」「毎日新聞」が大きく取り扱い、NHKのニュースでもとりあげられた。これらの記事では実際にアップリンク渋谷に通っていたという記者の思い出が語られたり、公的な資金援助の必要性を訴えたり、最終日の上映やトークショーの模様を報じたりしている。しかし、いずれも閉館の理由に関しては「コロナ禍の影響」「緊急事態宣言と休業要請のため」という文脈でまとめられ、ハラスメントには言及がないか、訴訟が提起され和解に至った、という経過の記述にとどまり、UWVAH側の「円満な解決ではない」という主張はオミットされている。