1ページ目から読む
2/5ページ目

不正を疑われると選手が呼び出される「公正課」

 その際、Dは露骨な表現を避けながら、次のような意味のメッセージを西川に伝えた。

「今日、自分が出走する後半のレース(選手は1日12レースのうち、1回もしくは2回出走する。2回乗りの場合、1回目を「前半」、2回目を「後半」と呼ぶ)で八百長をする打ち合わせになっているが、マークされているようなので中止させてください」

 シリーズ参戦中のDが西川に対し、わざわざ連絡をする必要があったということは、増川が八百長で飛ぶ予定のDを外した舟券を買うことになっていたのだろう。なお、この日Dは最終12レースに1号艇で出走する予定になっていた。

 公正課とは、その名の通りレースの公正を監督管理するモーターボート競走会の部署で、いわば業界の公安部門、監察室だ。公正課は、選手が不審な走りをしたり、外部から苦情があるとすぐに当該の選手を呼び出し尋問する。ちなみに西川も逮捕される前、この公正課に何度も呼び出しを食らっている。

ADVERTISEMENT

 Dはこのシリーズですでに1回、1号艇で出走し、不自然に遅いスタートで4着に沈み、高額配当を演出していた。「Dはイン(1号艇)のときだけ必ずスタートが遅れる。怪しい」と憤ったファンが、レース場あるいは競走会に直接クレームを入れた可能性がある。

 LINEが事実であれば、Dは「このシリーズが終わったらちょっと話がある」と公正課に呼び出しを食らっていたのだろう。「ここまで厳重監視されているなかで、八百長はできそうにない」――Dは西川にそう伝えたというわけだ。

 ところが、この後意外な展開が待っていた。

「今日の八百長は無理」と連絡したはずのDは最終12レース、1号艇で出走し、6艇のうちもっとも遅いスタートであっさり6着に敗退したのである。

6艇で争われる競艇は他の公営競技と比べ買い目が少なく不正が起きやすいとされる

「仁義なきだまし合い」

 舟券を買う役目の増川は、Dの「八百長しない」という言葉を信じ、それならばとDの頭から舟券を総額40万円も購入していた。普通にレースをするなら本命になるはずだと考えたわけだが、結果はいかにも八百長じみたレースだった。怒りのあまり、増川は西川にこうLINEしている。

<なんやDまた飛んどるぞ!>

 

<仕事せんて言うでDから40はったわ! あのアホ>(増川)

 

<ほんまや>

 

<なめとるな>

 

<ほんまにアホやわ>(西川)

 

<アカンなアイツ もう金は貸さん!>(増川)

 

<間違いない! とりあえずはやいうちに元金だけ先回収しとかなあかんな>(西川)