不正を疑われると選手が呼び出される「公正課」
その際、Dは露骨な表現を避けながら、次のような意味のメッセージを西川に伝えた。
「今日、自分が出走する後半のレース(選手は1日12レースのうち、1回もしくは2回出走する。2回乗りの場合、1回目を「前半」、2回目を「後半」と呼ぶ)で八百長をする打ち合わせになっているが、マークされているようなので中止させてください」
シリーズ参戦中のDが西川に対し、わざわざ連絡をする必要があったということは、増川が八百長で飛ぶ予定のDを外した舟券を買うことになっていたのだろう。なお、この日Dは最終12レースに1号艇で出走する予定になっていた。
公正課とは、その名の通りレースの公正を監督管理するモーターボート競走会の部署で、いわば業界の公安部門、監察室だ。公正課は、選手が不審な走りをしたり、外部から苦情があるとすぐに当該の選手を呼び出し尋問する。ちなみに西川も逮捕される前、この公正課に何度も呼び出しを食らっている。
Dはこのシリーズですでに1回、1号艇で出走し、不自然に遅いスタートで4着に沈み、高額配当を演出していた。「Dはイン(1号艇)のときだけ必ずスタートが遅れる。怪しい」と憤ったファンが、レース場あるいは競走会に直接クレームを入れた可能性がある。
LINEが事実であれば、Dは「このシリーズが終わったらちょっと話がある」と公正課に呼び出しを食らっていたのだろう。「ここまで厳重監視されているなかで、八百長はできそうにない」――Dは西川にそう伝えたというわけだ。
ところが、この後意外な展開が待っていた。
「今日の八百長は無理」と連絡したはずのDは最終12レース、1号艇で出走し、6艇のうちもっとも遅いスタートであっさり6着に敗退したのである。
「仁義なきだまし合い」
舟券を買う役目の増川は、Dの「八百長しない」という言葉を信じ、それならばとDの頭から舟券を総額40万円も購入していた。普通にレースをするなら本命になるはずだと考えたわけだが、結果はいかにも八百長じみたレースだった。怒りのあまり、増川は西川にこうLINEしている。
<なんやDまた飛んどるぞ!>
<仕事せんて言うでDから40はったわ! あのアホ>(増川)
<ほんまや>
<なめとるな>
<ほんまにアホやわ>(西川)
<アカンなアイツ もう金は貸さん!>(増川)
<間違いない! とりあえずはやいうちに元金だけ先回収しとかなあかんな>(西川)