西川以外の捜査が行われない現状
競走会は「名古屋地方検察庁の厳しい捜査」というが、これだけ八百長の存在が推認される証拠があるにもかかわらず、名古屋地検特捜部は西川以外の捜査をしていない。
西川の事件は、まず名古屋国税局が増川の脱税情報をキャッチし、ガサ入れで押収されたスマホの履歴等が名古屋地検特捜部に提供され、競艇の八百長事件として立件された。特捜部はあくまで増川の脱税事件の捜査を本線とし、西川は脱税の共犯者という位置づけだった。「特捜部が捜査を尽くした結果、西川以外に不正選手はいなかった」と競走会が説明するのであれば、それはまったく実態とかけ離れている。特捜部が全選手を厳しく調べてシロだったかのような言説には何の根拠もない。
競走会は今年(2021年)に入り、密かに全選手に対し「西川の本を読んだか」「八百長グループが他にもいると書かれているが、何か知らないか」といった質問を含むヒアリングをしている。だが、これによって何かが判明したという発表はいまのところない。このようなアンケートを実施したところで、自ら「実は自分も八百長をしました」と名乗りを上げる選手がいるはずもない。
弱みを握られると八百長はやめられない
過去に不正はあったが、西川事件以後、八百長は撲滅された――仮にそうであったとしても、それで許される問題ではない。競艇における八百長は、モラルの問題ではなく「モーターボート競走法違反」という刑事責任を問われる犯罪であり、多少の時間が経過したからといって注意や処分で済まされる事案ではないからである。
西川の事件が発覚したことで、他の八百長選手もさすがに不正を封印するだろうと考えるのは早計だ。一度、八百長に手を染めた選手は必ず、舟券を購入する共犯者と秘密を共有することになる。
その共犯者が実の家族など、本当に信用のおける人物なら良いが、犯罪傾向の進んだ人間であれば選手が「このあたりで八百長を封印したい」と言ってくれば、まずこう言うだろう。
「ダメだ。これからも仕事をしてもらう。断ればお前の悪事をバラす」
こうなると、弱みを握られた選手は不正を継続しなければならない。八百長レーサーは共犯者の「金づる」になってしまう可能性が十分に考えられる。それが八百長の怖さであり、根絶が困難な理由でもある。(#3に続く)