一度に借りられる金額はだいたい3万円以下
メールで連絡を取ると、住所や年齢、家族構成のほか、実家や取引先の連絡先、家族の勤め先、子どもの学校名といった情報を送るよう返信があった。預金通帳や健康保険証のコピー、免許証を顔の横に掲げた自撮り写真の提出も求められた。結局、細谷さんは30件近い個人情報を渡してしまう。
「一度に借りられる金額はまちまちですが、だいたい3万円以下です。あるヤミ金からは2万8000円を借りて、1週間後には4万円の返済を求められました。別のヤミ金からは1万5000円を借りて返済は3万円とか。お金を借りるときは、知らない人の口座から複数回に分けて振りこまれることもありましたし、返すときは毎回違う口座を指定されました。証拠を残さないようにしているのかなと思いました。
警察には何度か相談しましたが、『暴力団が組織的にやってるわけじゃないので、実害が出るまで動けない』『事務所がないので、うちの管轄かどうかわからない』などと言われ、取り合ってもらえませんでした」
返済が滞ると、「新しく口座を作ってくれれば、利息分をまけてやってもいい」「手元にあるキャッシュカードを郵送してくれれば、返済を待ってやってもいい」といった提案を持ちかけられたこともあった。振り込め詐欺などの犯罪に使われるかもしれない――そう思って提案を断ると、今度は「息子さん、〇〇中学だよね」「個人情報をネットで晒す」と脅され、やむを得ず別のヤミ金から借りてしまう。こうしたことを繰り返した結果、借金は雪だるま式に増えていったという。
(中略)
家族・知人にも取り立てが…
細谷さんの携帯に、今度は妹から電話がかかってきた。
「お兄ちゃんが変なところからお金を借りるから、お金を返せって何度も職場に電話がかかってくる! このままだったら、私が会社に行けなくなっちゃうじゃない!」
横で聞いていてもパニック状態になった声が漏れ伝わってくる。妹は実家のある地方都市で暮らしている。細谷さんによると、ヤミ金業者からの取り立てはすでに実家の両親や知人にも手が及んでいるという。すぐに反貧困ネットワークの顧問弁護士・林治さんに面談のアポを入れた。
林弁護士は細谷さんからの聞き取りを終えると、携帯電話の着信履歴をもとに片っ端からヤミ金業者に電話をかけ始めた。今後は請求行為を一切しないように、という趣旨を淡々と伝えていく。中には「詐欺で訴えるぞ!」「本人にかわれ!」などとすごむ相手もいたが、ほとんどの業者は「わかりました」「弁護士が間に入ったら、それ以上請求しません」と言って早々に切り上げた。