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SNSヤミ金の入り口

 最近では、SNSにこうした書き込みをすると、やり取りの履歴が残らない「テレグラム」というメッセージアプリを使うよう指示されることもある。テレグラムはロシアで開発された無料アプリで、グループチャットなどの会話は一定時間後に消去され、その後の復元は難しいとされる。このため特殊詐欺グループやヤミバイトといった犯罪の相談や指示に使われることが多い。一度でもSNSヤミ金にアクセスすれば、最悪、犯罪の片棒を担がされることにもなる。

 冒頭の細谷さんは、民間のネットワーク「新型コロナ災害緊急アクション」にSOSを発し、林弁護士とつながったことで九死に一生を得た。最後に、藤田氏のルポルタージュから細谷さんのその後を引用する。コロナ禍の生活苦を食い物にするSNSヤミ金――そのアリ地獄の入り口は、私たちの暮らしのすぐそばにある。

ヤミ金の督促から逃れる方法は、1円も返さないこと

 この日は結局、夜になるまでヤミ金業者の対応に追われた。7時頃になって、ようやく細谷さんの携帯への督促電話やメールも減り始めた。ぼちぼちと業者側もあきらめたようだ。細谷さんは今後、自己破産の手続きを進めるという。事務所の一角で林弁護士が細谷さんにアドバイスをしている。口調はいつになく厳しい。

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「ヤミ金は1か所でも借りた時点で、“カモリスト”に載ります。彼らは個人でやっていますが、同時にネットワークも持っています。細谷さんの個人情報は今も全国のヤミ金関係者に共有されていると思ってください。ヤミ金からは絶対借りてはいけないことは言うまでもないのですが、万が一、借りてしまった場合、お金は元金も含めて1円も返す必要はありません。意外かもしれませんが、ヤミ金の督促から逃れる方法は、1円も返さないことです。取り立てが恐ろしいからといって少しでも返せば、『脅せば返すやつだ』と思われるだけです。あと数日、嫌がらせは続くかもしれません。でも、そこは頑張って耐えてください。ご家族にもそう伝えてください」

(中略)

 助手席に座る細谷さんが問わず語りに話し始めた。

「SOSを出す前は、これ以上家族に迷惑かけないようにどうやって死ねばいいか、ということばかり考えてました。だから、銀行のカードとかクレジットカードとか全部捨てたんです。身元不明の遺体のほうがいいのかなって……。皆さんとつながらなければ、死んでいたと思います」

 その声は少し震えているように聞こえた。