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「スポーツの力」という感情論

──しかし、今回の東京オリンピックで言われている「スポーツの力」は、ノスタルジー一辺倒ではないですよね。

坂上 そうですね。東京都議会がオリンピックの招致を決定したのは、東日本大震災から約半年後のことでした。共産党と生活ネットワーク・みらいは、招致は「民意に背く」、「最優先すべきは被災地の復興に向けた支援」だなどと反対しましたが、それに対して与党である民主党(当時)、自民党、公明党の3党が、「震災からの復興のためには、スポーツの持つ、人々を勇気づけ、そして夢と希望を与える力が何よりも必要」などと主張し、招致を決議しました。その後、東京オリンピック・パラリンピック招致委員会が打ち出したキャッチフレーズも「今、ニッポンにはこの夢の力が必要だ」でした。

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 こうして叫ばれるようになった「スポーツの力」というのは、スポーツの持つイメージに寄り掛かったもので、感情論に近いものです。震災復興のための政策としての有効性、復興政策全体の中での位置付けなどが何も吟味されておらず、内容的にはほとんど感情論の域を出ていません。

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 こうした感情論が力を持ったのは、第一に、先に述べたオリンピック中毒あるいは依存症とでもいうべき日本の状況。これがベースにあって、その上に、米紙が「フクシマの年の奇跡」などと報じた2011年のサッカー女子ワールドカップでの「なでしこジャパン」の優勝、これが決定的なインパクトをもたらした。

 都議会の招致決議の討論でも、この優勝によって「日本じゅうが歓喜の渦に包まれ、ひとつになり、多くの人々に夢や希望、感動を与えてくれました。人々を動かす、スポーツの持つ大きな力が改めて証明された」といった主張がなされました。

 さらにその翌年の2012年ロンドン・オリンピックでも、日本が過去最多のメダルを獲得し、人々が「スポーツの力」を実感したわけです。ロンドン・オリンピック後、メダリストたちが東京でパレードをしましたね。すると、見物人が何十万人も集まった。あれでオリンピックに対する反対世論は封じ込められてしまったのだと思います。

──今回の東京オリンピックも、招致段階では、都民は反対のほうが多かったはずです。

坂上 いくつかの調査でもそれが示されていました。しかし、あの時は、スポーツがものすごく輝いて見えた。震災後の暗闇を照らす眩しい光源のようだった。スポーツ基本法も超党派で作りましたね。オリンピックにひとつの救いを求めたということだと思います。そしてそれが冷静な議論を吹き飛ばしてしまった。