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連載昭和事件史

2021/09/26

「彼の背後に数名の女性があることが判明。その1名と手をとって高飛びしたのではないかと…」

 翌9月23日付朝刊になって事件の全貌がほぼ明白となる。最も詳しい読売を見よう。

 日大運転手の自動車ギャング 教授令嬢と高飛び? 強奪の校金百九十万円懐に
 

 白昼、銀行帰りのダットサンを襲い、現金190万円入りの赤革ボストンバッグを強奪した事件につき、丸の内署では直ちに被害者、日大本部会計課員・八木下茂(20)、同運転手・佐藤清喜(41)、同小使・金山忠七(63)3君を招致。事情を聴取したが、犯人(19)は昨年2月、同校に運転手として就職。毎月22日には職員の給料を富士銀行神田支店、千代田銀行小川町通支店に下ろしに行くことを知っており、本人自身しばしば受け取りに行ったことがあるので、車の通るコースはもちろん、金額もよく知っている点などから、今回の犯行は最初から計画的に行ったものとみられ、さらに彼の背後に数名の女性があることが判明。その1名と手をとって高飛びしたのではないかと見る説が有力になった。

事件の全貌が明らかになった(読売)

 千代田銀行は、財閥解体で三菱銀行が改称し、一時期こう名乗っていた。記事は手口についても詳細に報じている。

 事件当日は、八木下さんら3名が午後1時ごろ学校を出て、まず千代田銀行小川町通支店に入り、小切手90万円の現金化と預金47万円の払い戻しを依頼。さらに神田淡路町の富士銀行神田支店に行き、現金53万円を八木下さんが受け取り、再び千代田銀行に向かう途中、小川町交差点付近で待ち受けていた犯人が「体の具合が悪いから」と乗り込んだ。千代田銀行に着いて前に依頼した現金137万円を受け取って3人が帰校しようと神保町交差点まで来たとき、助手台にいた犯人がいきなりジャックナイフで運転している佐藤さんに「左へ行け」と脅迫。さらに大手町を右に折れ、同1時40分ごろ、大手町1ノ7、労働省前に来た時、後席を振り向きざま八木下さんに切りつけ、左頸部に全治10日間の傷を負わせ、佐藤運転手と八木下さんをその場に降ろし、自分が運転して神田橋まで行き、そこで小使の金山さんを降ろし、東京駅に向かって走り去ったもので、同3時ごろ、大手町1ノ6、モータープール脇に青塗りダットサンが乗り捨ててあった。さらにそこから徒歩で東京駅方面に逃走。途中から日本橋方面に向きを変えて逃げるのを目撃した人がある。

現在捜査は「犯人」の女性関係に焦点が置かれ…

 さらに読売の記事は、容疑者の日大運転手の経歴と女性関係に触れる。

 日大運転手は(昭和)20年3月、郁文館中学を2年で中退。いったん母親(45)の実家、北海道・幌泉に帰ったが、23年12月、再度上京。24年2月から日大本部に運転手として勤務したもの。
 

 現在捜査は「犯人」の女性関係に焦点が置かれ、昨年夏、友人某の紹介で知り合った北区中里町の女性(19)と、千代田区神田三崎町1ノ32、日大本部3階に住む同大文学部教育学担当教授の長女(18)の2名が背後に浮かび上がったが、

1.22日深夜に至るも、教授の長女は帰宅していない

2.彼女の勤務先、台東区浅草橋1ノ9ノ4、ピアス化粧品に22日は出勤していない

3.「犯人」の父(60)の証言によれば、今月初め、教授長女と知り合ってから急に不良性を発揮し始めた
 

――などの点から教授の長女との高飛び説が果然有力視されるに至った。

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