とくに練習時における強硬な姿勢は、他メンバーの反感を買った。事前に合意していたフォーメーションを独断で変更し、それに意見をされると「私がリーダー。言うとおりにして。意見をしないで」と主張して場を凍らせた。『ガルプラ』では、当初から中国勢のはっきりとした姿勢が見られたが、それがもっとも良くないかたちで現れたシーンだった。
もちろん、より良いパフォーマンスを求めるうえではこうした意見の相違は必須だ。そこで重要なのは、議論したうえで解決してより良いパフォーマンスを導くことにある。「Salute」チームは、番組内では対立が回収されないまま本番に至った。結果は最高のものとなったが、このチームはもともと順位が低い参加者が多いこともあり、ツァイ・ビーン以外の8人全員がここで脱落した。
大幅に順位を上げた、日本勢の「ダークホース」
このコンビネーションミッションを終えて、エピソード8では次の段階に進む27人が発表された(後に中国勢ひとりが辞退)。今回も当落は日韓中が同じ割合だ。上位勢に大きな変化はなかったが、幾人か当落線上の参加者の躍進が目についた。
なかでも大幅に順位を上げたのは、ラップ曲であるウ・ウォンジェ「We Are」をパフォーマンスした3人だ。メンバーのキム・ボラ(Cherry Bullet)とウェン・ヂャはそれぞれ5つ順位を上げ、永井愛実もふたつ上げて全員が生き残った。ベネフィット獲得はならなかったものの、視聴者からの評価はとても高かったことになる。
この3人は、前回の順位は低く全員ギリギリで通過した。そのため、キム・ボラと永井は希望していたヴォーカル曲を選択できず、消去法でラップ曲を選んだ。だが、それによって、逆に3人の新たな才能を発揮させた。
なかでも光ったのは、永井のリズム感の良さだ。彼女は韓国語があまりわからない中リリックを書かなければならなかったが、それにもかかわらず、審査するK-POPマスターからは高く評価された。なかでも原曲のラッパーでもあるウ・ウォンジェは、「本当にこれからもラップを続けてほしいです」と繰り返し絶賛した。
福岡出身で19歳の永井は、今回の日本勢ではダークホース的な存在だ。詳しい経歴はあまり確認されておらず、わかっているのは福岡で和太鼓チームのメンバーだったことくらいだ。和太鼓で培ったリズム感とラップが上手く組み合わさったことで、その潜在能力が大きく開花したのかもしれない。
K-POPの脱“ファクトリーアイドル”の傾向
永井愛実のこうした急成長は、現在のK-POP状況を象徴するものとも捉えられる。
2010年代以降、K-POPがその源流のひとつである日本のアイドル文化から距離をおき始めたのは、音楽と実直に向き合う姿勢を強めたからだ。
単なる“ファクトリーアイドル”ではなく、そこではパフォーマーたちの能動性・自律性がより重視されるようになった。『PRODUCE 48』から生まれたIZ*ONEでも、宮脇咲良が作詞・作曲をするなどメンバーの制作参加がしばしば見られたが、それにはこの背景があるからだ。