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PCは使わず、研究会もしない アナログすぎる棋士は“藤井聡太時代”の将棋界で何を思うのか

PCは使わず、研究会もしない アナログすぎる棋士は“藤井聡太時代”の将棋界で何を思うのか

近藤正和七段インタビュー #3

2021/10/09
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――2004年度(2004年4月~2005年3月)は、2月7日の時点で32勝3敗(0.914)。そこで勝率歴代1位の記録を持つ中原誠十六世名人(1967年度の8割5分4厘で、47勝8敗)に勝ちます。次戦は安用寺孝功四段(現七段)に敗れて、8割6分8厘で対戦したのが谷川棋王でした。残念ながら、この将棋は攻め急ぎが敗着になりました。

近藤 読んでいるのは手じゃない。将棋盤じゃなくて、谷川先生を見ているんですよ。十七世名人を相手に普通の手でいけるかよ、光速の寄せでいきなりやられるかもしれない。そう思って端に味付けしたら、受けに回られて完敗。谷川先生が受けるとは思ってもいなかった。

「お前は実力の割りに恵まれているよ」

――相手のイメージや信用で読みが組み立てられていくのは、人間同士の勝負ならではです。

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近藤 そこは自分の甘さです。人を見てやるなら、将棋指しよりほかの職業が向いていたんじゃないのといわれたらねぇ(笑)。でも、それも将棋の面白さだと思うんです。僕だと「ふふっ」と笑われちゃうような大悪手でも、羽生さんだったら相手は何かあると思って考えるでしょう。そういう伏線があって、焦ってポカとか出るわけだし。

 勝率1位を取ったのはうれしかった。でも次の年は指し分けに近かった。河口先生(俊彦八段)に「お前は実力の割りに恵まれているよ」といわれたことがあるけど、それは中飛車のおかげなんです。

――影響は大きく、2000年代の新鋭振り飛車党の多くが、主軸を藤井システムからゴキゲン中飛車に切り替えていますね。

近藤 みんなが藤井さんを食い尽くしちゃったっすよ。ゴキゲン畑にはこなくていいよーと思っていたら、イナゴの大群がバーと来てしまった(笑)。でもファンの方が真似してくれるようになり、「ゴキゲン先生」と呼んでくれるようになりました。

 運がよかったのは超速3七銀が出てくるまで十数年の時間があって、そういう時代に思いっきり戦えたことです。いまの時代だとソフトで研究されてすぐに強力な対策が出てきちゃうだろうし、そうなると活躍どころか四段になる自信もないです。

自分の勝った将棋を並べて、いい気分で臨むだけ

――近藤七段はプロになってからほかの棋士と研究会をしたことがないそうですね。さらにパソコンを持っていないそうですが、将棋ソフトや棋譜データベースを使わずにどうやって研究しているんですか。

近藤 僕は昔から変わらなくて、自分の将棋を盤に並べて考えるだけですね。対局が近くなったら、自分の勝った将棋を並べて、いい気分で臨むだけなんですよ。スマートフォンは持っていますけど、それでネット中継を見ることはないです。

――中飛車の最新棋譜を集めたり、対戦相手が指した将棋を調べないのは珍しいです。

近藤 僕は対戦相手の性格を考えて、予想した作戦と近そうな自分の将棋を並べていく。研究家は以前の作戦から変えてくることが多いんですよ。さすがに近藤も研究してくるだろうと思うんだろうね。勝負師型の人は、これで勝ったからもう一丁いってやれと同じ作戦で来ることが多い。でも、予想は結構外れるよ(笑)。