これ、NHKで大丈夫なの? ドラマ10『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』の製作発表で、脚本と演出も務めるオダギリジョーの語った言葉だ。「今のNHK、ちょっとヤバいですよ……」とも。
テレ東の深夜枠ならピッタリ。『時効警察』を放映したテレ朝十一時台でも、もちろんOKだ。だけどNHKの金曜十時に、オダジョーが犬の着ぐるみ姿で、下品な言葉を喚く警察犬を演じるドラマを流すって。世の中も変わったというか、やっぱNHKヤバいすよ。
東京の近郊だろうな、狭間(はざま)県警の鑑識課警察犬係が舞台の警察ドラマだ。
交番女子を描いた『ハコヅメ』同様に、職場の雰囲気はかなり緩い。犬を調教する青葉一平(池松壮亮)の相棒警察犬オリバーは、犬の姿をしているが、一平には着ぐるみ姿の下品で酒臭いオッさんとしか見えない。「エロいオイニー(匂い)がするぞ」なんて言葉を一平に向かって話す。もちろん人語だ。
犬と警官が喋る緩い街でヤバい事件が起きた。十一年前に失跡した女児の遺体が山中で見つかった。発見者はスーパー・ボランティアの小西さん(佐藤浩市)だ。七件連続のお手柄だ。
アップになった少女の死顔が美しい。デヴィッド・リンチ監督の『ツイン・ピークス』で“世界一美しい死体”といわれたローラ・パーマーを想起する。
リンチ作品に共通する、平和な街の地下に蠢く暗黒世界が、狭間署の管内にもあった。間抜けなグウタラ犬のオリバーが「エロいぞ!」と吠え、神社の境内で掘りだした缶には、切られた片耳と拳銃があった。
穏やかにみえる街で抗争する半グレ集団TMTと極道の関東明神会。半グレのトップ役は永山瑛太。極道の若頭は松重豊だ。錚々たる役者が二十人近くも出ている。細野晴臣まで理髪店の店主役で登場。老紳士の橋爪功の髭を剃る。
失跡少女の行方を執念深く追っていたフリー記者は永瀬正敏。かつて『私立探偵濱(はま)マイク』で、最高に恰好いいダメ探偵を演じた永瀬を、オダジョー世界で見ることが出来た。眼福。
謎は深まる。怪しい男女もゴロゴロ。これを三話で完結させるのは無理だ。だらけた鑑識課の部屋で、一平の先輩、麻生久美子が叫ぶ。「私たちはコロナに立ち向かったのよ。何を怖がる必要があるの」
違和感が膨らむ。このドラマの収録は恐らく第四波の頃だ。すると、ダメな警察犬がいる世界は二、三年先のコロナが収束した近未来か。あるいは劇中に頻出する「バールのようなもの」「パイオツ、カイデー」などの死語がいまも残るパラレル・ワールドが舞台なのか。まるでディックか筒井康隆の世界だ。伏線の回収なんて無用だね。不条理をラストまで楽しもう。
INFORMATION
『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』
NHK総合 全3回 放送終了
https://www.nhk.jp/p/ts/ZPZJP2WJ9R/