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「……渡辺先生のセッティングって、本当に初期セッティングのままで、パソコンの性能を活かせていなかったんです」

「その渡辺先生が、新しいパソコンも購入して、dlshogiとNNUEの評価の両方を見られるようにした。今までも本格的だったかもしれませんけど、相当本腰を入れて……という感じかもしれませんね」

「それで今後、今までの将棋と何か差が出てきたら……いいなぁ、と思います」

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 たとえ千里を走る名馬がいたとしても、それを見抜くことができる者がいなければ、並の馬と同じようにくだらない労役にこき使われて千里を走る前に死んでしまう。
 いかに高性能なソフトを高価なパソコンで動かしたところで、平凡な使い方をするのであれば……何も変わらないだろう。
 渡辺はこれまで自身が名馬として将棋界のトップを走り続けてきたが、これからは将棋ソフトをいかに使うかも問われることになる。

 75手目。
 dlshogiが9四成香を指した時点で、杉村は開発者権限で投了を選択した。
 責任者である松本も、視聴者に向けてメッセージを発する。

「このままでは不完全燃焼でしょうから、dlshogiが先手番の第3局を実施したいと思います。第2局以降の持ち時間を短くする設定もすぐに行います」

 18時53分。
 歴史に残る長時間マッチの第1局は、dlshogiの勝利となった。
 誰も予想していなかった形で。

 ……イベント後に行ったインタビューで、さすがに疲れた表情を見せながらも、杉村は大きな達成感を抱いていた。

「今回の目標は達成しましたし、私としては今回みたいに『精一杯やってみたらどうなるのか?』という実験でもありました。それでとってもご注目いただいたので、満足しています」

 イベント後、1ヶ月でチャンネル登録者数は2200人まで伸びた。目標の倍以上だ。
 財務基盤も整い、それを大会の賞金に回せば、開発者たちにとって電竜戦はさらに魅力のある大会になるだろう。