最強CPU将棋ソフト『水匠』と最強GPU将棋ソフト『dlshogi』が対決するイベント“電竜戦長時間マッチ「水匠 vs dlshogi」”が、2021年8月15日に実施された。
ともにトップクラスの強さを誇る最高峰の将棋AIが激突したこの対局を、開発者は、プロ棋士は、どう見ていたのか。
ライトノベル「りゅうおうのおしごと!」作者である白鳥士郎氏による観戦記を全4編に渡ってお届け。電竜戦長時間マッチの舞台裏を紐解いていく。
※インタビューは2021年8月20日に行われ、棋士の肩書き・段位等は当時のものになります。
第一譜『水匠』杉村達也の挑戦 |
第二譜『dlshogi』山岡忠夫の信念 |
第三譜『GCT』加納邦彦の自信 |
第四譜『プロ棋士』阿部健治郎の未来予測 |
取材・文/白鳥士郎
「……まさか?」
『水匠』開発者・杉村達也は、自身の開発した将棋ソフトの読み筋にその文字を見つけた瞬間、血の気が引いていくのを感じた。
『それ』が存在することを、杉村は事前に知ってはいた。
同時に、極めて再現性が低いということも知っていた。ある棋士はその出現率を「2年で3~4回」と語っていたのだから……。
『それ』について、『やねうら王』の開発者である磯崎元洋(やねうらおのペンネームで知られる)もやはり「再現性がない」という理由で、大して取り合ってくれなかった。
つまり、いつ出るかわからないし、出る確率も極めて低いということである。
しかしそれが今、水匠の読み筋の中にはっきりと出現していた。
「え!? こ、ここで出るのか……」
しかも『それ』が出たのは、水匠だけではなかった。
検討のために別のパソコンを使って走らせていた、別のソフトでも……その『バグ』が出現していたのだ!
このとき杉村には2つの選択肢があった。
1つは、このまま対局を続けるという選択。
もう1つは、開発者権限で投了し、すぐさま次の対局を開始するという選択。
最初の『続ける』という選択肢を、杉村は即座に排除する。
「残念ながら将棋は終わっていました。それをこのまま続けるわけにはいかなかった。なぜなら――」