イベント本番までの短い期間、杉村は八面六臂の活躍を見せる。
電竜戦公式チャンネルの開設。
将棋系VTuber(バーチャルYouTuber)とコラボしたプロモーション動画の依頼。
中継のための配信画面のフォーマットを作り、告知用ツイートの画像を作り、観戦記の執筆を依頼し、ニコニコ動画でも生放送できるよう担当者と折衝を行う。
それらの多くに関して、杉村は独断専行するのではなく、SlackやDiscordといった通信ツールを使って他の開発者たちにアドバイスを求めながら進めていった。
開発者たちは杉村の案を叩き台として、それぞれの得意分野を活かして、アドバイスを行った。
将棋ソフト開発者たちはプログラマーが多いが、その職域は様々だ。
知識があるぶんだけアドバイスの水準も高く、杉村は初めて行う作業に四苦八苦しつつ、課題を一つずつクリアしていった。
対戦相手であるはずのdlshogiチームの加納は「杉村さんがあまりにもみんなからボコボコにされていたので私も少し協力したら、やっぱりボコボコにされました(笑)」と、楽しそうに当時のことを語っている。
杉村も、当時のことを笑いながらこう回想した。
「文化祭をやってるみたいな感じでしたね。私は小さな法律事務所の弁護士なので、普段は一人で仕事をすることが多いです。けど開発者のみんなと長時間マッチのための準備をしている期間は、企業に勤めてグループで仕事をしているような感じがしました」
誰しもが予想しない形で決着となった長時間マッチ第1局
そしていよいよ、イベント当日――8月15日を迎える。
解説として登場する予定のプロ棋士たちも告知に協力してくれたため、事前の手応えはそれなりにあった。
配信基地は、杉村の事務所である本八幡朝陽法律事務所のミーティングルーム。
15時に佐々木が事務所へ到着し、配信の打ち合わせを始める。
強気な佐々木は対局時の同時視聴者を「3000人は行くでしょう」と見ていた。