最高の解説者を招くことができた。
ならば配信も、今までのような内輪のみのもので終わらせるのはもったいない。
普段の電竜戦は、松本が自宅で、対局を管理する片手間に配信を行っていた。
自作の将棋演歌『千駄ヶ谷エレジー』をBGMに行うその配信を視聴するのは、多くても100人前後。
かつてドワンゴが行った電王戦の頃は数百万人が視聴していた将棋ソフトへの、これが現在の世間の注目度だった。
しかし今回の座組であれば……この状況を打破できるはずだ。
杉村は目標を立てた。
「同時視聴者1500人。対局終了後に、チャンネル登録者数1000人」
YouTubeでは、チャンネル登録者数1000人等の条件をクリアすれば、スーパーチャットと呼ばれる寄付を受けることができる。
杉村は弁護士としての業務経験から、このスーパーチャットで得られる金銭が意外と大きなものになると知っていた。
これを電竜戦の賞金に充てることができれば、大会の魅力を高め、新たな開発者が参入してくれるきっかけになる……。
「とはいえ簡単に目標を達成できるとは思っていませんでした。将棋ソフトが公の場で名人を破った『Ponanza』と佐藤天彦名人の対局時ですら、以前の電王戦と比べると視聴者数は下り坂になっていましたから……」
藤井聡太の登場による将棋ブームのさなかにおいても、たまに将棋ソフトの読み筋と藤井の読み筋が重なることで話題になることがあっても、将棋ソフト開発自体への世間の興味が復活することはなかった。
しかし、だからこそ杉村は挑戦する価値があると思った。
もともと杉村は『難しいことに挑戦するほど燃える』という性質があった。
弁護士になったのも、司法試験が日本で最も難しい試験だからだ。
そして杉村のもう一つの性質。それは――
「やるからには、自分が出せる力を全て出し尽くした時に、どんな結果が出るか見たい」
「『ちゃんとやったらどれくらいになるのか?』というのは、モチベーションになります。結果が出るものが好きなんですね」