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 幾度かのやり取りの後に、dlshogiチームの山岡と加納からは条件面も含めて対局の同意を得ることができた。
 そしてやり取りを進めるうちに……杉村の中で、ある考えが浮かんでくる。
 この長時間マッチを大々的なイベントとして行うことで、電竜戦をもっと盛り上げることができるのではないか、と。

「最初は、興行的にするつもりはなかったんです。けれどCPUで動く最強のソフトとGPUで動く最強のソフトの対局というのは、興味を持つ人も多いんじゃないかと思うようになって……」

 とはいえ実現へのハードルは高かった。
 これまでの電竜戦は全て松本がほぼ1人で全ての業務をこなしていた。配信も、対局管理も、会計処理も。
 上は7歳から下は1歳半まで3人の子供を抱える松本は、自宅で電竜戦の配信を行うと妻の機嫌は当然悪くなる。翌日は3人の子供を公園へ連れて行かねばならない……。

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「カツ丼さん(松本)にこれ以上の負担はかけられませんし、言い出したのは私ですから。今回は、私がイベントの準備や運営を行うつもりでした」

 手始めに杉村は交流のあったプロ棋士・佐々木勇気七段に解説役を打診する。
 その後、佐々木七段とのダブル解説を依頼するため、第2回電竜戦TSECで解説を務めた阿部健治郎七段にも声を掛けた。
 さらに、杉村が個人的に将棋ソフトの設定とパソコンの購入を手伝った渡辺明名人からも「そういうイベントがあるなら、解説しましょうか?」と言ってもらうことができた。

 最高峰の将棋ソフト同士の対局を、現役の名人にして将棋史上最強クラスの棋士である渡辺明が解説するという、願ってもない幸運
 杉村の中で、イベント成功への道筋が見えた瞬間だった。

「普段の将棋ソフト同士の対局は、持ち時間が5分とかなので、人間が解説するのに向かないんです。けれど長時間マッチは、人間同士の対局のようにゆっくり進むので、プロ棋士の先生に解説していただければ、視聴者にも楽しんでもらえると思いました」