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 松本は2013年に行われた第1回将棋電王トーナメントにもエントリーした古参の将棋ソフト開発者で、普段は証券マンとして働く、パワフルな人物だ。
 3児の父でもあり、趣味に投じることができる時間は少ないが、オンライン大会であれば自宅から参加できるため負担も少ない。

「ドワンゴが主催していた将棋電王トーナメントが終わってしまい、大会が年1回、5月に行われる選手権だけになってしまった。でも将棋ソフトの発展のためには、大会は年2回あったほうがいい」

「CSAの瀧澤会長に例会で『秋にもオンラインで大会をやりましょう』と提案したんですが『やりたいけどリソースがない』と言われてしまって……それで勢いで『俺がやる!』と言ってしまったんです(笑)」

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 松本はソフト同士の自動対局システム『電竜戦システム』を独力で作り上げ、それまで数人で分担していた作業を、実際にたった1人で行えるようにした。
 また松本は「大会をやるなら賞金を出すべき」という持論を持っていた。選手権は賞金は出ず、代わりに文部科学大臣賞が優勝ソフトに与えられる。いわば『名誉』のみの大会だ。

「ノーベル賞がどうして高額な賞金を出すかといえば、さらなる研究を続けるための資金に困らないようにするためでしょう。将棋ソフト開発の発展のためには、開発資金の原資となる賞金は必要ですよ」

 そのための財務基盤を整えるため、松本は電竜戦をNPO法人化し、寄付によって運営する体制を目指す。
 その申請の手伝いをしたのが、弁護士でもある杉村だった。正式名称は『特定非営利活動法人AI電竜戦プロジェクト』。理事長は松本。杉村は監事だ。

 かくして2020年11月に開催された第1回電竜戦は、賞金総額が100万円を超える規模となる。
 そして55ものソフトが参加し、加納邦彦の開発した『GCT』が頂点に立った。加納は今回の長時間マッチにおけるdlshogiチームの一員である。

 電竜戦は、開発者たちに好意的に受け容れられた。
 しかし世間の反応は冷淡だった。
 史上初めてディープラーニング系の将棋ソフトが優勝したという革命的な結果にもかかわらず、その開発者である加納には1件の取材すら来なかった。プロ棋士を筆頭とする将棋プレーヤーたちも、電竜戦やGCTのことを話題にする人間は皆無に等しかった。
 ……しかし実は、ある人物がディープラーニング系の将棋ソフトに興味を抱き、研究に取り入れるのだが……これについては加納が主役となる第三譜に譲ろう。