そして17時。
電竜戦理事長である松本の宣言によって対局が開始された瞬間の同時視聴者数は――3186人。
どんどん増加していく視聴者数は、杉村の企画したこのイベントが予想を遙かに超えて成功したことを示していた。
しかし増え続ける視聴者を焦らすかのように、先手のdlshogiは、なかなか初手を指さない。
阿部が「定跡を切っているから長考するんですか?」と尋ねると、杉村はこう言ってそれを肯定した。
「お茶を飲んでいると思ってください」
3分後。dlshogiはようやく初手を指す。
角道を開ける7六歩だった。
佐々木は「dlshogiは相掛かりを指すかと思ったけど……」と首を捻る。確かに、短時間の将棋ではdlshogiは初手に飛車先の歩を突く2六歩を指すことが多い。なぜ今回は違ったかについては、第二譜で開発者の山岡に語ってもらおう。
水匠も長考で返す。
阿部は「いつ終わるかすらわからない」と長期戦の覚悟だ。「手数は300を超えると思う」と、対局開始前に語っていた。
その予想は意外な形で覆されることになる。
スローペースな序盤を見ながら、解説役の佐々木と阿部は、親しげに言葉を交わす。
「アベケンは最近、人間界の棋譜を見ないの?」
「見てるけど、全ての棋譜は見切れない。ユウキは?」
「人間界中心で見てる。ソフトの対局は1日に50局とか入ってくるから追いつかない」
「人間界はどこまで見てる?」
「終盤はあんまり見ない。30手目くらいまで」
「それが効率のいい勉強なんだね」
二人ともデビューから10年以上が経過し、若手から徐々に中堅へと移行しつつある。今後のプロ棋界の中心を担う世代の赤裸々なトークは実に興味深い。視聴者数も4000人を超えた。
順調に増えていく視聴者数。
そして後手の水匠の評価値も順調に増えていった。
28手目の時点で水匠は自身に350点ほどつけており、これはコンピュータ将棋の序盤ではかなり高い評価【※】といっていい。
序盤の立ち上がりを杉村はどう見ていたのか?