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「B級リーグではdlshogiが圧倒的な強さで優勝していました。だから思ったんです。長時間の対局で戦ってみたいと」

 B級リーグは、ファイナル決定リーグに進めなかった48チームで争われた。
 ファイナル決定リーグに進めなかったソフトも、NNUE系の強豪ソフト揃いだ。ディープラーニング系のdlshogiがそれらを下して優勝したということは、既にどのような局面においても、dlshogiがNNUE系のソフトと互角以上に戦うことができる証明でもあった

 ではなぜ、杉村は長時間で戦いたいと思ったのか?
 TSECは持ち時間3分(一手ごと2秒加算)だった。将棋ソフトの大会はこのくらいの持ち時間が一般的なのだが……。

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「通常、将棋ソフトは2倍の時間を使って読ませると、レーティング(強さ)が100~150ほど上がる【※】といわれています」

「持ち時間をとっても長くしてみたら、レーティングが500~1000も上がった状態になる。そのとき、どんな棋譜が生まれるのか、見てみたかったんです」

※チェス界における棋力判定方法を将棋界に導入したもの。レーティング差200は、段位で言うと一段の差。

 それでは、どうして『90分(1手ごとに15秒加算)』という持ち時間となったのか?

「dlshogiは探索した全ての局面を保存しておかなければならないんです。だから、あまりに長時間動かし続けると、メモリが足りなくなってしまう恐れがあるとのことでした」

 ちなみに、将棋ソフトの大会では、一手ごとに持ち時間が加算される方式、いわゆるフィッシャールールが一般的である。この理由についても杉村は次のように語った。

「それは通信遅延による時間切れを防ぐためです。時間をかければかけるほど強くなるので、みんなギリギリまで考えさせるようになるんですが、1手毎の秒読みとすると時間切れになりかねない。でも一手ごとに加算というルールにすれば『残り何秒になったら指す』と設定することによって、時間切れを回避しつつ、加算される秒数のほとんど全てを思考時間に充てられますから」