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政治問題がデビューメンバーにも反映されてしまった

 筆者はこの連載の初回に、『ガルプラ』の試金石は日韓中の政治的な衝突だと指摘した。それを乗り越えることこそが、この企画が目指す世界共通言語としてのK-POPのプレゼンスだと捉えていた。

 だが現実的には、オーディション過程で政治問題に端を発する齟齬が生じ、それがデビューメンバーにも反映されてしまった。それによって脱落したのが、フー・ヤーニンとスー・ルイチーのふたりの中国勢だ。

 最終結果では、ヤーニンは12位、ルイチーは13位だったが、総得票数ではヤーニンは6位、ルイチーは7位だった。この逆転現象が生じた理由は明解だ。このふたりは当初から韓国票が極端に少なく、韓国票50%:グローバル票50%で換算される今回の方式ではスコアが低くなってしまった。

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 韓国で不人気だった原因は、二人が過去にSNSでした政治発言にある。とくにスー・ルイチーは、「抗米援朝」の書き込み(現在は削除)が早い段階から批判的に注目されていた。

 昨年10月、中国は朝鮮戦争に義勇軍を派遣して70周年を迎えたが、その際に習近平指導部は「アメリカに対抗し、北朝鮮を援助する」という意味の「抗米援朝」スローガンでアメリカを牽制した。このとき、スー・ルイチーなど多くの芸能人も賛同しSNSに投稿をした。そのなかには、K-POPガールズグループ・f(x)の一員として長く活躍したヴィクトリア(ソン・チェン)も含まれる。

 中国は2018年に国家主席の任期が撤廃されて、年々習近平の独裁体制が強まっている。そうした表現の自由が保障されない独裁国家において、公の場で発せられた政治発言がどれほど本人の「真意」かはもちろんわからない。

 そもそも、この連載でも前回簡単に触れたように、ルイチーは少数民族の回族(イスラム教徒)だ。国際的にも問題視されている中国政府のウイグル人迫害は、回族など他のムスリムにも波及することがかねてから懸念されている。

『GIRLS PLANET999』公式サイトより

 よって、回族である彼女の発言が、こうした現在の中国社会で発せられたことには強い留意が必要だ。表現の自由が保障される日本や韓国のひとびとは、独裁国家を生きるひとびとに対してより想像力を持つ努力が必要とされるのではないか。