都内某所の闇カジノ。鉄の扉の向こう側では、虚々実々の駆け引きが繰り広げられている。その日、バカラテーブルは異様な熱気につつまれていた。
バカラのルールは、丁半博打にも似て実にシンプルだ。「BANKER(バンカー)」と「PLAYER(プレイヤー)」という架空の二人の人物に対して、客は第三者としてどちらが勝つのかを予想し賭けるというゲームである。ディーラーが配る2~3枚のカードの合計の下一桁が9を超えない範囲で9または9に近いほうが勝ちというルールで行われる。
ディーラーがスマートな手つきでシューターからカードを配る。シューターとはカジノ専用のカードケースのことで、長方形のケースには数セットのトランプが収納されている。ディーラーはシューターの取り出し口からカードを取り出しテーブルに配るのだ。
血走った目に「ここは勝負ですね」の声かけ
ディーラーにめくられるカードの数字を凝視する客たち。
テーブルには、クラブXの上客だった田島壮太の姿があった。建設会社の二代目社長である田島はクラブXの上客だった。お気に入りのキャバ嬢に誘われて、支配人神崎とともに闇カジノ店で遊び、どっぷりとはまるようになっていた。
「ここは勝負ですね」
神崎が田島に声をかけた。
最初は大勝していた田島は、ゲームが進むほどに負けが込み始めるようになっていた。その目は血走っている。
田島は大量のチップをBANKERにベットした。一発逆転の大勝負だ。
闇カジノの別室には、モニターを監視している男がいた。男は手元のコントローラのスイッチを押した。
シューターの中のカードが静かに入れ替わった――。
「関東近郊でバカラをやっている店の7割から8割はイカサマをしている」
この日、田島はバカラで500万円を負ける。ジャンケットとして田島を店に連れてきた神崎は50%バックの250万円を手にした。騙し騙されという人間関係のなか、闇カジノには人が集うのだ。
「関東近郊でバカラをやっている店の7割から8割はイカサマ、いわゆるポンコツ箱と呼ばれる店だと言われています。残りの1~2割が調整店や平箱と言われている店です。調整店とは経費分だけはイカサマをして稼ぐという良心的な店で、平箱はガチのギャンブル店です」