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「元祖ホリエモン!?」

光クラブの「残党」はその後も暗躍した(読売)

 三島もワンパターンの「アプレ」のイメージに反発していたのだろう。同じような問題はその後も繰り返し登場する。犬田充「光クラブ賛江 アプレの敗北」(「月刊アドバタイジング」1978年11月号所収)は「アプレは死に絶えたのか」と問い、「ほぼ30年後の現在、サラ金現象が噴出している」と、山崎の犯罪はその先行現象ではなかったかと問題提起している。

 1985年に「投資ジャーナル」の中江滋樹・会長(当時)が詐欺容疑で逮捕され、「豊田商事」の永野一男会長(同)が刺殺された際も、2人と「光クラブ」「山崎晃嗣」が比較の対象となった。そして、最も共通点が指摘されたのは、2004年ごろからマスメディア企業やプロ野球チームの買収で話題を集めた堀江貴文「ライブドア」社長(当時)が2006年、証券取引法違反容疑で逮捕されたころだった。

 市川孝一「戦後復興期若者文化の一断面」=明治大学文学部紀要「文芸研究」第116号(2012年)所収=は「時代の寵児であった主人公の転落劇に半世紀以上前の事件が思い起こされたのである。それは、山崎と堀江の二人に『東大生』『起業家』『転落』などの共通点があったからである」と書いている。

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 2006年に復刊された「私は偽悪者」の帯には「元祖ホリエモン!? 劇場型人間、山崎晃嗣の問題作復刊」のキャッチコピーが躍っていたと同論文。「文藝春秋」2005年5月号の「心の貌 昭和事件史発掘(1)『光クラブ事件』山崎晃嗣」も「自殺した東大生高利貸しはホリエモンの祖型か」のサブ見出しを付けている。

本当に山崎の犯罪は「拝金主義者」の無軌道・無節操な犯罪だったのか

 しかし、本当に山崎の犯罪は「拝金主義者」の「アプレ東大生」による無軌道・無節操な“アプレ犯罪”だったのだろうか?

 文芸評論家・唐木順三は1950年の「自殺について 日本の断層と重層」で山崎晃嗣を取り上げ「戦後の無軌道な社会、既製の生活基準が崩壊しさり、新しいモラルが単に言葉としてしか用意されなかった時代にあって、みずから『合意によるものは拘束さるべし』という単純な標語をかざし、そこに生き、そこに死んでいったこの青年は、戦後の一現象としてみるだけではかたのつかないものをもっている」と書いた。

 山崎が「婦人公論」の対談で「皆が言う、そのあいまいなものにぶつかって、進退きわまってみたいような気がいたしますね。ほんとにそういう場合、きわまることがあるのかどうかを体験したいとは考えます」と語ったことについてこう述べている。

「人間を信ぜず、社会の善意を信ぜず、まして義理人情も恋愛も信ぜず、合意によるものは云々(うんぬん)の理論のみに身をもたせかけて、そこから彼みずからのいう『理論体系』をはり、それを動乱の世界に試みていく志業」

「山崎にいたっては、抵抗の相手をもたない。戦争が父によって代表されるすべてのものをすでにこわしつくしていた。いきおい、彼は彼の理論をひとりで維持しなければならぬ羽目になった。抵抗のない得意はみずからのうちに破滅をふくんでいる」