「乗りたい」を突き詰める
収益に占める割合は小さいが、車両開発の事業は「ミツオカ事業」として社名が冠され、同社の中核に位置づけられている。独創性の追求、という「光岡らしさ」を象徴する事業だといえるが、そこに携わる社員の想いとはどのようなものだろう。
同社の執行役員であり、営業企画本部長の渡部稔(わたなべみのる)氏と、企画開発課の課長として車両デザインを担当する青木孝憲(あおきたかのり)氏に話を聞いた。
まずは企画の立ち上げがどのように行われるか、という点である。「利益度外視」の印象を与える光岡の車作りだが、そこにマーケティング的な観点はどの程度取り入れられているのか。
「光岡の車は、量産のメーカーでは納得していないお客様に向けて企画されたものです。そのため企画のスタートは、私たち自身の『こういう車に乗りたい』という想いから始まります。マーケティング的にどうか、というよりも、『自分はお客様の代表』という意識で、コレに絶対乗りたい、というのを掘り下げていく形ですね」(渡部氏)
確かに同社のラインナップからは、「万人受けする車を作ろう」といった意図は一切感じられない。一目見れば、同社の車が「趣味性」を何より重視していることは理解されるが、そこには作り手の「好き」「乗りたい」という気持ちが色濃く反映されているわけである。
このような企画が「独りよがり」に陥らないのは、車作りの根幹に、「好きを突き詰めれば、受け入れてくれる人がいる」というユーザーへの信頼があるからだろう。
「自分たちが生きてきた時代や経験から、自分たちはコレだ、というところを表現することで、共感してくれる人が絶対いると思ってやっています」(同前)
作る側の「乗りたい」を突き詰めることで、ユーザー側からの共感を呼び起こすことができる。それを証明したのが、光岡自動車の50周年記念車「ロックスター」の成功だった。
転機となった50周年の「お祭り」
光岡自動車がブランドイメージを確立するうえで、大きな役割を果たしたのがロックスターである。ここから後の「バディ」のヒットを通じて、光岡自動車の認知は急速に広がっていくことになる。
目に見える変化としては、デザインのテイストがガラリと変わっている。それまで欧州、とくにジャガーやモーガンといった英国のクラシックカー風デザインがラインナップを占めていたが、ロックスターやバディは70~80年代のシボレーなどアメリカ車を意識したデザインだ。
「ロックスターは2017年頃から企画がスタートし、責任者である自分がまず、何に乗りたいかを掘り下げていきました。アメリカで4年ほど暮らしていた時に憧れていたのがカルマン・ギアやポルシェ914だったので、青木に作れないか聞いてみたんです。しかし、上がってきたデザインを見ても刺激にならない」(同前)