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マーケティングなんかよりも…

 開発事業において中心的な役割を担う渡部氏と青木氏だが、二人とも自身のことを「社内でもアウトローな存在」として位置づけていることが印象的だった。二人に共通しているのは、ある種の自己肯定感の低さであり、それが光岡の独創性を支えているようにも見受けられる。

営業企画本部長の渡部稔氏

「就職もせずにアメリカをふらふらして、負け組の意識がずっとどこかにあったんですよ。この会社に来たことに満足はしていましたが、周りから何をしているか聞かれ、恥ずかしくて言えない時期もありました」(渡部氏)

 その意識がポジティブに転化したのは、40年ぶりに参加した高校の同窓会がきっかけだったという。

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「なぜかみんな光岡自動車の名前を知っているんですね。変に立場が逆転しているというか、『羨ましい、好きなものを作って、お前の人生最高だね』って」(同前)

 好きなものを追求することが、羨望や憧れの対象になりうるという事実は、渡部氏にとって「発見」だった。

「そういう(羨望や憧れの)感覚が、世間一般のものとしてあるのかもしれないなって思った時に、どこかでふっきれたんですね。マーケティングなんかよりも自分の本当にやりたいことを出した方が、市場調査なんていらなくて、そこに憧れている生き方を見出してくれる人たちもいるんだろうなと」(同前)

光岡自動車富山工場入口

 社会生活を送るなか、自身の関心を追求できる場面というのは限られている。そうだからこそ、企画者自身の「好き」を突き詰めた光岡の車は魅力的に映るのかもしれない。

 マーケティングとは異なる観点からのものづくりを実現するうえで、「屈折」や「ヒネクレ」が新たなパースペクティブを開く。光岡の「今」を支える二人の話からは、そのような構図を読み取ることができた。

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記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。