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B君が気持ちのバランスを崩した動画

 結局、B君は本当にグロ動画の鑑賞を卒業しようとしていたのだが、“ぼーだー”から送られて来た、ある動画を観てしまったことで、気持ちのバランスを崩してしまっているようだった。しかし、「学校にもしばらくしたら顔を出したいと思っている」「人に話せて気持ちが少し楽になった」、そんなB君の言葉にNさんは少し胸のつかえが取れた。

「……あの、ちなみにさ、それどんな内容なの? 見れたりする?」

 Nさんの心に妙な好奇心が芽生え始めていた。

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 B君は「いや、ダメですよ!」と反発したが、「大丈夫、大丈夫! “ぼーだー”も誰かに見せろって言ってることだし」と説き伏せ、結局メールでその動画を送ってもらうことになった。

 そしてある日、Nさんは彼女と一緒にB君から送られてきた動画を再生した。

バースデーケーキ

「ハッピ…デートゥー…ウー!」

 ズーーー…ズッ、ズズーーーー…ズズーーー……

「ハッピバース…ートゥー…ユー!」

 ズーーー…ズッ、ズズーーーー…ズズーーー……

 動画は古いVHSカメラで撮影されているようで、トラッキングのあっていないようなノイズがそこかしこに走っていた。

 そんなノイズに混じって、数十人が誰かのお誕生日を祝っているような合唱が聞こえてきた。

 どこかのホームビデオを映したような雰囲気だが、画面には白いボヤボヤしたものしか映っていない。

 ジーーーーーー

 と、カメラが引いていくと、その白いものはろうそくの火が揺らめく大きなバースデーケーキであることがわかった。

©️iStock.com

 そして、薄暗い空間のなか、ケーキが置かれたテーブルの前に一人の女子高生と思しき制服姿の女性が座っていた。

「ハッピ…デーディア、ョウコちゃーん」

 ズーーー…ズッ、ズズーーーー…ズズーーー……

「ハッピバース…バースデートゥー…ユー! おめでと~!」

 ズーーー…ズッ、ズズーーーー…ズズーーー……

 巻き起こる拍手のなか、フーーーッと女子高生がろうそくの火を吹き消す。

 ジジッ……

 ここで、画面のノイズが幾分マシになった。だが、依然として画質は荒く、音声もくぐもって聞こえる。

「ありがとー! みんなありがとうー!」

 画面の女子高生はうれしそうに周囲に笑顔を振りまいている。

 肩透かしにあったような気分で困惑したものの、特段おかしな点もないホームビデオの映像に、Nさんと彼女は「お誕生会?」「そう見えるね…」なんて会話を交わす。

 ガサガサササ……

 カメラが引いていくと、女子高生の周囲には同じく制服を着た女子高生から、サラリーマン、さらには老人まで幅広い年齢の人物が30人ほど彼女を取り囲んでいることがわかった。