「(そのように)ずっとずっと思って夢見てた朝ドラだったので…」
クランクアップではなく、制作発表の場で、涙で目を潤ませる朝ドラヒロインを久しぶりに見たような気がする。11月25日に行われた2022年後期NHK連続テレビ小説『舞い上がれ!』の制作発表の場に立った福原遥の目には涙と、そして喜びが浮かんでいた。
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近年の会見で醸し出されていた「責任」「重圧」「抱負」
今も昔も、NHKの朝ドラが日本のドラマ界の檜舞台のひとつであることに変わりはない。だが近年、朝ドラのヒロインお披露目の会見はおめでたいムードよりも「責任」「重圧」「抱負」を感じさせるトーンで進むことが多かった。
以前に比べて朝の連続テレビ小説の脚本はより社会的なテーマに踏み込むことが多くなり、ヒロインにもすでに評価の確立したトップ女優が選ばれることが増えた。少しでも脚本に難が見つかればたちまちSNSで炎上するという環境の変化もあり、朝ドラヒロインは「うれしい」だけの場所ではなくなりつつある。一瞬も気を抜けない長い戦いの場だからこそ、クランクアップまで安堵の涙は控える女優も多い。
しかしだからこそ、制作発表で「これは嬉し涙です」と目を拭う新ヒロイン福原遥の会見は、「朝ドラに出演する喜び」を視聴者に思い出させる新鮮なものになっていた。
福原遥は過去3度朝ドラのオーディションを受け、一度も最終審査まで残れなかったのだという。ひとつには、福原遥の世代の女優の圧倒的な層の厚さがあるだろう。
1998年生まれだけでも『なつぞら』の広瀬すず、『わろてんか』の葵わかなという2人の朝ドラ主演女優、そして『おかえりモネ』で助演出演した恒松祐里がいる。1年上には『おちょやん』の杉咲花、下には清原果耶はじめ「黄金世代」と呼ばれる若手女優の実力者がひしめいている上に、近年の朝ドラは戸田恵梨香や安藤サクラなどといった完全に評価を確立した上の世代の女優がヒロインに選ばれる。若い世代のレッドオーシャン(過当競争)に加えて、知名度もキャリアも確立したトップスターとも競うのだから、最終審査まで遠いのも無理はない。
「朝ドラは若手女優の登竜門」などと言われたのも昔の話、今や鯉が滝を登って竜になると言われる登竜門ではなく、二階堂ふみや有村架純のような翼の生えたドラゴン級有名女優が次々と舞い降りる狭き門になっているのだ。