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2021年、「主演作品」がいくつもできて大躍進

 2021年は福原遥にとって躍進の年となった。『ゆるキャン△』『アンラッキーガール!』など、かつて言い切るのをためらった「夢の主演作品」をいくつも経験し、内容的にも高い評価を得た。

 福原遥の評価が急上昇した背景のひとつには、アニメ文化の地位が向上し、アニメ的表現が一般になじんだという一面もあるのだろう。だがもうひとつには福原遥の積み重ねてきた演技力、『ゆるキャン△』で1人キャンプを好む孤独な少女を演じる、力を抜いた「オフ」の演技、砂糖菓子ではなくキャンプの飯盒で炊いた白米のように暖かくかすかな甘さの演技ができるようになったという成長もあるのではないか。

 今年は声優の三石琴乃が連続ドラマ『リコカツ』に出演するなど、声優界と実写ドラマの融合が進んだが、福原遥はその中で『かぐや様は告らせたい』では、アニメ版と実写版で同じ役を演じるという稀な演技も見せた。アニメ文化と実写文化、声優と俳優のダブルカルチャーの中で育ってきた福原遥の中で、二つの文化が混じり合い、新しい表現を生みつつあるように見える。

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©AFLO

「今でもまいんちゃんと呼んでくださる方がいるのはすごく嬉しいです。抵抗はまったくありません」と、福原遥は自分の半分を育てたアニメ文化に今もリスペクトを献げる。

 現在、アニメ映画『アイの歌声を聴かせて』がSNSの口コミで動員を伸ばし、土屋太鳳の歌唱に対する評価が大きく高まっている。福原遥は土屋太鳳が演じる人工知能少女の同級生である人間の少女を演じるのだが、その声は甘さを抑えたナチュラルな演技で、天真爛漫な土屋太鳳の声のよきカウンターパートになっている。彼女はパンフレットの中で監督から「(無理に声を低くせず)素の声のままでいい」と言われたことを明かす。

 新作アニメ映画『フラ・フラダンス』はいわば「フラダンス版のチア☆ダン」のような物語だ。YouTubeの企画「RING³」で、『フラ・フラダンス』で再共演した富田望生は福原遥と電話を通して『チア☆ダン』の撮影時に悩みを話し合った思い出をふりかえり、「自分に女優は向いてないんじゃないかと悩んでいたはるぴょんに、今の輝いている姿を教えてあげたい」と語る(「はるぴょん」はチア☆ダン主演の広瀬すずが福原遥につけたニックネームである)。


 富田望生の出身地であり、被災地でもある福島県を舞台にした『フラ・フラダンス』の主人公の声を声優としてつとめる福原遥は、『チアダン』を思わせる5人構成のフラダンサーの中心に立ち、堂々たる主演をつとめている。『チア☆ダン』の舞台挨拶で言い切るのを躊躇った夢は今、自分の手で実現されつつある。

「思春期の頃、井上真央さんの『おひさま』に励まされたんです」と福原遥は会見で語った。『おひさま』は特に批評家受けする作品ではないが、思春期のころ、子役から名女優に成長していく井上真央の演技に励まされた福原遥は、人を励ます朝ドラの役割の大切さをよく知っているのだろう。

 2022年後期作品『舞い上がれ!』がどのような作品になるか、現時点ではまだわからない。だが朝ドラと子ども向けアニメの原点にはどちらにも、NHKが忘れるべきでない前向きな良心がある。アニメ文化と実写文化を結ぶ、どこか素直で人の良い福原遥の声は、その王道を復興させるために、明るく強く日本中に響くのではないかと思う。