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明るく健気なヒロインが、起用されにくくなった?

 だがもう一つ、これは筆者の想像だが、本来なら明るく健康的なイメージでいかにも朝ドラ的な福原遥が遠回りをしてきた背景には、近年の朝ドラの変化があったのではないかと思う。

 ここ10年の朝ドラを振り返ると、朝ドラ史上初のギャラクシー賞を受賞した2011年の『カーネーション』から始まり、宮藤官九郎の斬新な脚本による2013年の『あまちゃん』が朝ドラに変革の流れを作った。『スカーレット』では表現者としての女性、『エール』では戦争への加担、『おかえりモネ』では被災地と東京の格差。朝ドラの脚本はそのテーマをより深め、高い評価を得るようになっている。

 その反面、「若いヒロインが前向きに頑張り、夢を達成する」という従来のオーソドックスな朝ドラ的作品ばかりではなくなりつつあるとも言える。本来なら朝ドラヒロインにうってつけの明るく健気な福原遥のキャラクターが、かえって「重い朝ドラ」から避けられてしまったとも思えるのだ。

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 もともと、福原遥はNHKからその名を知られるようになった女優だ。『クッキングアイドル アイ!マイ!まいん!』は、福原遥がアニメとして柊まいんの声を吹き替えながら、実写パートでも同役として登場する、アニメと実写を融合した番組だった。

左から高校生の頃の関根莉子、福原遥、上白石萌歌

 10歳から14歳までという自我を形成する時期、福原遥はプロの声優たちに囲まれながら番組にレギュラー出演する。今でも「まいんちゃん」と上の世代から呼ばれるのはその名残だ。「初めてのアフレコの時、上手くできなくて家に帰って泣いてしまった」という福原遥は、周りを固めるプロの声優に負けまいと必死にアニメのアフレコの練習に打ち込む。

 子役からスタートを切ったスターは枚挙にいとまがない。だが福原遥という女優が独特なのは、10歳という異例の早い時期から「アニメ声優」としてそのキャリアをスタートさせたことである。

 日本のテレビアニメは労働環境などさまざまな理由で、子どもの役を実際の子どもではなく女性声優の声で演じることが多いのだが、アニメ声優が演じる子どもの声と、実際の子どもの不明瞭な声は実はまったく違う。福原遥は実際の子どもでありながらプロの声優たちの演技に食らいつくことで演技を学び始めた。その影響で福原遥の演技、とりわけ発声には、今もどこか「声優文化」の文法が残っているのだ。

 それは福原遥の個性や長所であり、同時に実写作品で敬遠されがちな理由にもなっていたと思う。「アニメ声」という言葉があるが、福原遥の声はまるで表面に砂糖をまぶしたキャンディのように甘い響きがある。その可愛らしさは、アイドルとして活動するうえでは魅力にもなるが、実写のリアリズムの役を勝ち取る上でハンデにもなったのではないか。