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コロナ対策の優等生とされる台湾でも……

 その代替として採用されたのが社区であり、社区を運営する居民委員会であった。居民委員会そのものは1949年の中華人民共和国建国直後から見られるが、その役割は歴史的に変化していく。改革開放により単位の役割が弱まるなか、2000年頃より最基層の行政組織としての役割が強化されていった。

 社区とは元来、コミュニティの訳語であるが、近年は壁に取り囲まれた団地という実態を指すのが一般的であった。いわゆるゲーテッドコミュニティに近い。この社区を運営する住民の自治団体が居民委員会である。次頁の行政組織図でいうと、郷鎮級である街道弁事処が所管しており、基層自治体という扱いになる。ただし、正規の政府機関ではなく住民の自治的組織という建て付けになっている。実際には居民委員会のトップ(書記)は政府から給与をもらう公務員である。地域ごとに待遇は違うが、北京市では平均給与の70%程度を支給するとの規定がある。俗に「居民委員会おばさん」とも呼ばれるような、人間関係のハブになっているような地域の顔役的な存在が担っていたことも多かったが、近年は若年化と高学歴化が進められている。

 社区内の問題の調停から保緑(緑化と維持)、保潔(清掃)、保安(治安維持)の「三保」をはじめとして、文化的レクリエーションの展開、高齢者や貧困家庭の支援、各種の宣伝活動への協力などの公共サービスを担うこととなった。

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 農村部では村民委員会がこの役割を担うこととなる。改革開放により人民公社が解体され、農村の郷級行政組織は郷、鎮に改組される。その下部に位置する行政村単位の住民団体が農村委員会となる。

 興味深いのは中国本土と並んで、コロナ対策の優等生とされる台湾でも類似の制度がある点だ。台湾では里(村)という基層自治体がある。全国に約7700あるが、選挙で選ばれた里長と職員1人によって運営される。1つの里が管理するのは台北市では1000~4000世帯程度。普段は高齢者のケア、住民の相談、スポーツ娯楽イベントの開催などが職務だが、新型コロナウイルス感染症の流行を受け、隔離対象者の把握や食事の配送など、物心両面のケアにあたる仕事を担っているという。