新型コロナウイルスの発生後、政府主導の「封じ込め」に成功したとされる中国。しかし「上に政策あれば下に対策あり」という言葉が生まれるほどに、中国はそもそも政府が民間を取り締まれない体質にあるのだとフリージャーナリスト・高口康太氏は指摘する。
同氏の著書『中国「コロナ封じ』の虚実 デジタル監視は14億人を統制できるか』(中央公論新社)では、習近平体制主導で従来の「デマ大国」体質を克服しようとする中国の現在が描き出される。課題解決のためのツールとして、中国は「デジタル・監視・大動員」という手段をどのように操っているのか。同書より一部を抜粋し、紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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デジタル化への躊躇
デジタルに導かれる生活、中国の人々はこれをどう受け止めているのか。
人気女性作家の蒋方舟(ジャンファンシュウ)は、2020年7月放送のNHKスペシャル「巨龍・中国が変えゆく世界 “ポストコロナ”を迎える市民は」に出演。外出自粛やアプリによる行動記録などパンデミック前には考えもしなかったような制度が次々と導入され、かつそれに人々がすんなりと従っていることに驚いたと語った。デジタルで導かれる生活に向かって躊躇することなく猛進しているかに見える中国社会だが、「パンデミックに対抗するため」という錦の御旗を得て、一気に進展し、かつ人々が抵抗することなくすんなりと受け入れたことに危惧を呈したわけだ。そのうえで、どのような制度がいいのかは本来熟慮が必要であり、疫病流行時に慌てて考えるものではないと釘を刺している。
蒋は2015年12月から約1年間、国際交流基金に招聘されて日本に滞在していた。私はその際に一度、話をする機会があったが、広大な中国において、都市と地方の格差、とりわけ教育や文化の格差が大きいことが話題になったことを覚えている。彼女は湖北省襄樊(じょうよう)市という地方都市の出身で、名門・清華大学に入学し、その後は北京を拠点としている。中国の地方と大都市、その双方に住んだ彼女の目には文化的格差は大きく映り、そしてコロナ対策において、デジタルの力でそうした人々の違いを強力にコントロールすることへの違和感を覚えたのではないか。
なお、蒋は以前に国際交流基金に招聘されていたことを理由に、2021年にネットで猛批判を浴びた。国際交流基金が招聘者リストを公開したところ、「漢奸(売国奴)リスト」だと批判されたのだ。前年出演したNHKの番組まで蒸し返され、中国のコロナ対策をおとしめるもので、中国を侮蔑していると叩かれた。
蒋の発言は炎上したとはいえ、一方でデジタルに導かれる生活に対し、違和感を持つ人が増えていることも事実だ。2020年9月、雑誌『人物』の記事「デリバリー配送員はシステムに閉じ込められている」との記事が話題となった。