また、これまでは野放図に使われていた顔認証などのAIカメラについても規制が始まり、利用にあたってはユーザーの同意を取ることが必要となった。2021年3月の国際消費者デーに放送された、国営テレビ局CCTV(中国中央電視台)の特別番組では、顔認証カメラを使った顧客管理が取りあげられた。ある顧客がその店舗を何回訪問しているのか、過去に何を買ったのか、他の店舗を訪問していないのか、顔認証を使って顧客を特定することで、店員はそうしたデータを把握できるという。会員証を使わずとも、顔を見せるだけで精緻な顧客管理が可能になる仕組みだが、こうしたシステムの導入を顧客に通達していなかったことが問題視された。中国では顔認証を使った顧客管理は広く普及しているが、規制のメスが入った。
これまで企業のデータ活用がフリーハンドで行われていた中国だが、今後は規制が強まっていくことになる。
ただし、それはあくまで企業の話であり、コロナ対策で見られたように、政府によるデータ利用は制限される気配はない。前述の「インターネット情報サービスアルゴリズム・リコメンド管理規定」にしても、企業の利用については制限が課されている一方で、「アルゴリズム・リコメンドサービスの提供者は主流価値(中国共産党が提唱する価値観)の動向を堅持し、アルゴリズム・リコメンドのメカニズムを改善せよ。積極的に正能量を伝播し、アルゴリズム応用を善へと向かわせなければならない」との条項が盛り込まれている。
日本の道
中国のコロナ対策を日本は見習うべきか。そのすべてを受け入れるのは御免こうむりたいという人が多いであろうし、そもそも日本と中国は社会から文化、歴史まで何から何まで違うので、そもそもコピーすることは不可能だろう。それでも、デジタルの力によってパンデミックを防いで日常を取り戻すことができるのならば……という誘惑はあるだろう。また、日本社会も変化を遂げていくなかで、基本的信用が失われていく時代にあって、中国的な手法がオルタナティブになるとの期待もある。
そこで課題となるのが、デジタルの力を借りつつも、いかに権力の暴走を止めるか、だ。権力の暴走という点でも、中国は「先進国」だ。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは19年に「新疆で稼働する大規模な監視システム」と題した報告書を発表した。海外在住の親族はいないか、ファイル交換ソフトを使用していないか、出国歴はあるかといった複数のデータを統合することで、「危険思想予備軍」を選び出し、予防的に拘束していると指摘した。すでに100万人を超えるウイグル族住民が収容施設に拘束されるなど、デジタル技術が人権侵害のツールとして活用されている。