信号無視を強いるAI
「また、2分間がシステムから消えた」
この印象的な書き出しから始まる記事は、レストランからのデリバリーを受け持つ配送員について取りあげたものだ。配送員はスマートフォンからの発注指示に従って、レストランに行き、料理を受け取って、消費者のもとに届ける。その際に規定の時間が定められており、遅延すれば評価の低下や罰金といった罰則がある。問題は規定の配送時間が次第に短縮されていることだ。ある配送員によると、デリバリー大手・メイトゥアンの配送時間は2016年時点では3キロメートルで1時間とされていたが、18年には38分にまで短縮されていたという。
この時間短縮はAIによってもたらされたものだと、メイトゥアンは発表している。「リアルタイムスマート配送システム」、通称「超脳」と呼ばれる同社独自開発のAIによって配送の効率化を実現したのだ、と。
一方、スマートフォンの指示に従って動く配送員からすると、仕事に慣れて効率のいい動きを覚えたところで、その分の時間が短縮され、常に必死で動き続けなければならない状況に置かれているとの絶望を意味する。ちょっとした工夫で済む話だけではなく、信号無視などの危険な交通違反を、配送員に自主的に強いるものだという。
この記事が一般の市民の間にも大きな反響を呼んだのは、配送員のみならず、自分たちもスマートフォンに指図される生活に置かれているとの共感からだろう。
先に述べたとおり、中国IT企業は消費者の潜在的なニーズと関心を読み取ったリコメンドを試み、どんどん精緻化させている。デリバリー配送員がシステムの奴隷となっている一方で、注文する消費者の側もいつ、何を頼むかについては、アルゴリズムのリコメンドを頼りにしている。