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 地元で生まれ、愛されるローカルチェーン店は、まさに土着文化と、食の多様性を感じさせてくれる。そのルーツをたどると、意外にも長くて深い歴史があったり、時代背景に伴う独創的なアイデアがあったり、海流や植生に育まれた伝統的な食文化がベースにあったりと、底知れぬ奥深さが潜んでいるのだ。

ヤカンでつゆを足しながら食べる福岡「牧のうどん」

 さて、2022年に私が注目しているローカルチェーン店を紹介したい。

 福岡のうどんチェーン「牧のうどん」は、ブヨブヨに伸びたような柔らかいが特徴だ。食べている間にもがどんどんつゆを吸い上げていくので、つゆを足すためのヤカンが横に置かれる。

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 地元では、牛肉とごぼう天のトッピングが定番の食べ方だ。皆と同じメニューを注文し、ヤカンでつゆを足しながら、さも「毎日やってます」という涼しい顔で黙々と食べると、なんだか福岡の地元民になれた気がして、旅の満足度が格段に上がる。讃岐うどんの次に全国区になるのは、福岡うどんではないだろうか。

おうちで日本のローカルチェーン店の味を楽しんでみては

 また、新潟のご当地B級グルメとして知られる「イタリアン」。焼きそばの上にトマトソースがトッピングされるという独特の世界観が楽しめる新潟のソウルフードだ。新潟ローカルのファストフード店「みかづき」に入店すると、数多くのメニューが目に入る。カレーイタリアン、ホワイトイタリアン、麻婆豆腐イタリアン……。一体ここはどこの国なのか。

 本場イタリアを差し置いて独自進化したイタリアンを「毎日食べてます」という涼しい顔で食べていると、店内はいつの間にか地元の高校生達やショッピング帰りの主婦達で賑わっている。もちろん皆、イタリアンを食べている。

 どこまでも平和な空気の中で、誰かの地元に溶けこんでいくような、エキゾチシズムあふれる食体験。これぞ、ローカルチェーン店探訪の醍醐味だ。コロナ禍が落ち着くであろう2022年に向けて、多種多様なチェーン店を旅の目的にする「チェーン店ツーリズム」を提案したい。お取り寄せができる店も増えてきたので、おうちで日本のローカルチェーン店の味を楽しむのもまた一興だ。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2022年の論点100』に掲載されています。