十分な睡眠時間を確保した方が日中のパフォーマンスが上がるとわかってはいても、実践するのはなかなか難しい。「睡眠のサイクルは1.5時間周期なので、1.5時間の倍数分の睡眠時間を取ると目覚めがいい」という俗説もあるが、本当に適切な睡眠時間とは一体どのくらいなのであろうか。
ここでは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の准教授である津川友介が、研究データを基に健康に生きるためのルールについて書いた『HEALTH RULES (ヘルス・ルールズ) 病気のリスクを劇的に下げる健康習慣』(集英社)の一部を抜粋。睡眠不足がもたらす悪影響と、誤解されがちな睡眠時間の基準について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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心筋梗塞や動脈硬化のリスクが上昇
慢性的な睡眠不足は、健康に様々な悪影響を及ぼすことが知られている。例えば、約50万人の年齢40~69歳の成人を7年間追跡した英国の研究(*1)では、睡眠時間が6時間未満の人は、それ以上の人と比べて、心筋梗塞になるリスクが20%も高いことが明らかになった。睡眠時間が1時間延びるごとに、心筋梗塞のリスクが約20%低下することも分かった。
*1 Daghlas I et al. Sleep Duration and Myocardial Infarction. J Am Coll Cardiol. 2019;74(10):1304-1314.
また、スペインで約4000人を対象として行われた研究(*2)では、睡眠時間が6時間未満の人は動脈硬化が進んでいることが明らかになっている。睡眠時間が短くなると、血液中の炎症性物質が増えると言われており、これが原因だと考えられている。
*2 Domínguez F et al. Association of Sleep Duration and Quality With Subclinical Atherosclerosis. J Am Coll Cardiol. 2019;73(2):134-144.