実は道産子だが、北海道の定期運行は実現せず
さて、このDMVという奇抜なアイデアは日本で具体化した。JR北海道の副社長(当時。後に会長)が、幼稚園の送迎バスを見て「これを線路に乗せたら低価格な鉄道車両ができるし、維持費も安くなる」とひらめいた。JR北海道は赤字ローカル線が多く、低コストで運行できる車両が必要だった。列車はお客様に駅まで来ていただく必要がある。でも、バスモードでお客様がいる場所を巡回し、駅から列車モードで鉄道を走れば便利だ。
DMVはお客様を迎えに行き、鉄道主要駅へお連れする列車だ。中間地点で鉄道を走れば定時性を確保できるし、鉄道の鉄橋やトンネルを通り抜けて最短ルートを提供できる。JR北海道は試作機を作り、観光路線で社会実験を実施し、2008年の洞爺湖サミットでは先進7か国の首脳とEUのトップにお披露目できた。
しかし、北海道で定期運行は実現しなかった。大雑把に言うと、同一路線を既存の鉄道車両と同時に運行できない。DMVは車体が軽いため、鉄道の信号センサーで検知しにくかった。そして、JR北海道は線路不具合による脱線、列車火災などの不祥事が重なり、経営の立て直しが急務となった。DMVや新型車体傾斜式特急車両など技術開発は打ち切られた。
一方、DMVは地方ローカル線を維持する手段として注目されていた。国土交通省が主導して、開発と運用方法の検討が行われた。いくつかの第三セクターや地方鉄道に貸し出され、試験運行も行われた。そのひとつが阿佐海岸鉄道だった。
DMV導入前の阿佐海岸鉄道は、徳島県海陽町の海部駅と高知県東洋町の甲浦(かんのうら)駅を結ぶ8.5kmの短い路線だった。もともとは国鉄阿佐線として室戸を経由して高知県と繋がる計画だったから、全線高架とトンネルだ。駅が高いところにあるため、地上と長い階段で結ばれる。もちろん不便だし、日常的に使う人は少ない。当時は海部駅でJR四国の牟岐線に乗り換えられたから、地元から遠くへ行く人や観光客が乗る鉄道だ。