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「犯罪と戦う前に、大便と戦うなんて…」外国人犯罪捜査員たちの“知られざる苦悩”とは

2022/01/30
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部族同士が戦いをやっているから、自分たちも戦う

 日本人にはわからない感覚として元刑事が例に出したのは、繁華街の路上で殴り合っていたアフリカ出身の2人組だ。交番まで連行して喧嘩の理由を問うと、「アフリカの祖国では部族同士が戦いをやっているから、自分たちも戦うんだと息巻いて喧嘩していたんだ。何も自分たちが日本で喧嘩しなくてもいいだろうと説得し、お互いに土下座させた。事件にするまでもなく解放したが、帰り際に『おまわり、お前を許さねえ。正座させられ頭まで下げさせられた』と凄まれた。外国人に土下座の習慣がないと、まだ知らなかった頃だ。似たような喧嘩はイラン人同士でもあった」。

 イランはひとつの民族からなる国ではなく、ペルシャ人、アゼリ人、クルド人、ユダヤ人など50以上の民族から構成され、種族や民族間では問題が起これば対立抗争に発展することもある。

©iStock.com

 日本の中でも民族間の対立抗争はあり、これが始まると日本のヤクザ同士の喧嘩どころではなかったようだ。だがヤクザとぶつかってもすぐに引き、窃盗はやるが集団で強盗などの手荒なことはしなかった。

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 次第に彼らは、代々木公園や上野公園周辺に集まりコミュニティを形成していく。バブルが崩壊して働き口を失うと、使用済みのテレフォンカードの再生や偽造、麻薬の売買などで稼ぎ始めたのだ。その取引やイラン人同士の情報交換の場所として選ばれたのが、上野公園や代々木公園だった。その後、このコミュニティにパキスタン人やバングラデシュ人が加わっていった。

 彼らはなぜ上野公園や代々木公園に集まったのか。

急増した韓国や中国からの入国者による犯罪

「あの頃のイラン人たちは、昔の日本の出稼ぎ労働者と同じ感覚だ。昔は列車の終着駅が上野で、正月やお盆になると上野から自分の故郷に帰っていった。渋谷も同じ。東横線や井の頭線など電車の終点は渋谷だ。やつらは終点に集まった。そして、終点には自分たちと似たような連中が集まることを知っていた。日本人も外国人もそこは同じ。新宿や池袋は通過点であって終点ではなく、近くに集まれる大きな公園がなかった」と元刑事は彼らの心情を推察する。

 彼らは上野公園に集まる家出人や近くで働くフィリピン人や韓国人の女の子相手に、公衆電話で使う偽造のテレフォンカードを売っていた。

「1000円で1万円程度の通話ができた偽造テレカは飛ぶように売れた。代々木公園では竹の子族などが流行り、週末には若者が集まっていた。偽造テレカだけでなく大麻を買う若者が増え、それが覚醒剤になり、麻薬を扱うイラン人が増えていく。警察が取り締まりを強化した頃から、上野公園も代々木公園にもイラン人が急速にいなくなった」(前出・元刑事)

 イラン人の犯罪は減少したが、反比例するように急増したのが韓国や中国からの入国者による犯罪だった。「犯罪の質が変わった」(同前)、ここから外国人犯罪は凶悪なものへと変わっていった。

「犯罪と戦う前に、大便と戦うなんて…」外国人犯罪捜査員たちの“知られざる苦悩”とは

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