愛されて過去を埋めたいという心情が出てくる

 弁護人は臨床心理の専門家による分析をもとに梯被告の特性を解説。「未成年のうち大半を施設で暮らし、愛されて育つ経験ができず、また母親から壮絶な虐待を受けたことで心に深い傷を負った」ことにより、被告には「解離的自己状態」「強い愛情欲求」「断れない心理」があり、これが事件に影響したのだと述べる。

「過去から今までの歴史と、将来への展望があって、人は自己が確立されるが、沙希さんはひどい虐待の経験から過去を否定し、空虚な自分になった。過去を否定するしかないため、カバーストーリーが必要になる。ときに『嘘つき』と言われる要因がこれである。過去の交際相手に『大阪出身で母親と仲がいい』などと嘘をついていたのもこうした背景による。

梯被告と稀華ちゃん。稀華ちゃんの写真は限られた友人だけに公開する別アカウントのインスタグラムにのみ投稿されていた(梯被告のインスタグラムより)

 過去を『ないもの』として生きていると、再び愛されて過去を埋めたいという心情が出てくる。そのために親密な人間関係を求める傾向が生まれるが、自己が空っぽであるため、希薄な人間関係しか築けず、次々と男性関係を求める。

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 沙希さんは被告人質問で『自分の中に穴が空いていて、埋めようと必死だが、埋まったことがない』と述べたが、愛情を求める欲求が強いことが、母親としての自己ではなく1人である自己が優勢になった一つの要因として説明できる。また、断れない心理は鹿児島行きに歯止めがかからなかった要因でもある」(弁論より)

 論告、弁論の前に、短い被告人質問が行われた。ここで梯被告は改めて、稀華ちゃんへの気持ちや、事件についての後悔を語り、自己否定を繰り返した。弁護人から現在の気持ちを問われ、マスクの下で洟をすすりながら、こう語った。