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 後にわかることだが、石塚組長に発砲した男は矢野死刑囚の配下だった。翌日、2人組の男が病院に侵入し、1人が窓ガラスを割り、もう1人が拳銃を発砲して石塚組長を射殺した。

矢野は特異な存在「口封じに仲間を殺すヤクザはいなかった」

「これが『日医大ICU事件』です。またも矢野の配下による犯行でした。広い病院の中でなぜ犯人は石塚がいる場所がわかったのか。捜査員が看護師に話を聞くと、事件の前に矢野が自ら『石塚の身内だ』と話して、面会に来ていたことがわかりました。現場の下見をしにきたのでしょう。ICUには当然、ほかの患者もいました。薬莢は隣の患者の衣服の中から見つかっているんです。矢野は目的や保身のためなら、無関係の人を巻き込むことを厭わない。とても危険な事件でした」

日本医科大学付属病院 ©️文藝春秋

 数多のヤクザと対峙してきた櫻井氏だが、当時の矢野死刑囚は特異な存在だったという。

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「抗争と見せかけて、口封じのために仲間を殺すなんてヤクザはこれまでいなかった。昔ながらの良い親分像とは真逆で、まるでかつての連合赤軍の内ゲバのようです。小日向も手記で書いていたようですが、確かに矢野はヤクザじゃなくてテロリストのようになっていった」

 矢野は『日医大ICU事件』の後も稲川会系組幹部への襲撃を部下に指示し続けたが、失敗が続いた。そして「テロリストのように」見境がなくなった矢野死刑囚率いる矢野睦会は、『前橋スナック銃乱射事件』まで突っ走っていく。

前橋スナック銃乱射のために潜伏していたアジトの周辺 ©️文藝春秋 撮影/上田康太郎

櫻井氏がとった「逃亡した小日向の足取り」

「『前橋スナック銃乱射事件』の捜査本部は群馬県警に立ちましたが、警視庁も早くから『四ツ木斎場事件』『日医大ICU事件』の流れにある事件だと把握していました。事件後、実行犯は姿をくらましていて足取りをつかめなかったのですが、私がある人間の取り調べで、小日向がフィリピンに逃亡しているという供述をとったんです。それがきっかけで小日向の逮捕につながりました」

 櫻井氏は取材に快く応じてくれたが、現役を退いた現在でも言えないことがあるようで、小日向死刑囚がフィリピンに逃亡していたことを誰から聞いたのかは明かさなかった。

 小日向死刑囚は身柄を群馬県警に移送されスナックでの銃乱射を自白。矢野の指示だったことも告白し、矢野は『日医大ICU事件』に続いて殺人罪で起訴された。