文春オンライン

「価値があるから高価なのではなく、高価だから価値がある」日本の農業をよみがえらせる“常識外れのブランド戦略”とは

『「やりがい搾取」の農業論』より #2

2022/02/21
note

ミカン作りの技術的核心

野口 じゃあ、ミカン作りの一番の技術的核心って何ですか? 水の与え方なのか、肥料なのか。それとも、剪定なのか摘果なのか。葉っぱの採り方なのか。

M氏 剪定やろ。基本はね、そこから入るの。木の状態、木の形を整えてね、毎年ミカンを成らす。それで量とか玉の大きさが整いやすいのよ。あんまり込み合いすぎると色がつかないし。上級のものを作るのにはね、剪定抜きにしてはちょっとね。やから技術的に言うと、やっぱ剪定の技術、優先させなね。

野口 じゃあ、剪定はミカンの大きさに関わってくると?

ADVERTISEMENT

M氏 それだけやのうて、あんまり枝を切ってしまうとミカンが成らんのよ。ミカンは常緑の隔年結果やから、落葉果樹とかと違うて、前年伸びた枝に花がつくのが性質やから。やから、剪定だけじゃのうて、摘蕾というのもやるんやけど。

野口 摘蕾?

M氏 昨年成った樹は今年は花がつかんから、実が成らんけんね。去年、全然成ってないやつはべたべたに花が来る。花をちぎったらその枝は来年成るいう約束ができるから、花だけちぎるが。つぼみの時に。そしたら翌年成ると。つぼみは米粒ぐらいやからめんどくさいのう。やけど効果は抜群よ。

 片枝成らして片枝休ますと。1年後に片方の枝が成るがの。そしたら毎年成りよるが。やけど、枝が伸びただけではいかんばって、樹全体を見て、枝を短くしてね。あんまり切ってしまうと、翌年に成る枝がなくなるから、来年再来年も考えてないといけん。その繰り返しをやりよると、樹のバランスがとれてくるわけ。

 やっぱ上手いのは、365日ヤマ行きよる人よ。ずっとミカンを見てる人。やけど個人差もある。腕持った人は剪定の仕方が微妙に違うし、感性かのう、そういう人は。観察眼も良いんやろうけど。上手な人、下手な人はあるよ、やっぱりそれは。何年やってもね。レンコンだってそうやろ?

野口 もちろんそうですね。でも、この地域のミカン農家って、上手い下手とか言っても、大半が(ミカン栽培が)上手いじゃないですか。平均としてみんな技術が高いじゃないですか。

M氏 それは、そういう上手い人が居たら見に行くからや。見に行って教えてもらうし。他県であっても。そういうところを見てきたら、集会を開いて。勉強会言うか。若い連中らは、集会や言うたら、そういう勉強会があったら、みんな集まったわけよ。あとは、飲み屋でやけど。そういうところで話し合って。全部が真似できる言うたら、それは難しいかもしれんが、できるだけ上手い人の真似をしてな。

野口 そういう、自分たちが経験されたことを、また子供たちや若い世代の方に伝えたと?

M氏 それはもちろんそうや。