この世からオレオレ詐欺をなくすために
誉田 もちろん警察は特殊詐欺撲滅のために全力を尽くしていると思いますが、それでも被害がなくならない現実があります。今のところ打つ手はないのでしょうか?
土井 なかなか難しいですよね。一時期は捕らえた被疑者を取調べる際、とにかくグループごと叩くことばかり私も考えていましたが、ある時からは「あなたにも違う人生があるでしょう?」などと、一人ずつ将来に目を向けさせ真っ当な人生を送らせる努力をするようになりました。
誉田 つまり、加害者側の再犯防止を促すということですよね。でも、聞く耳を持っている人間は、最初から特殊詐欺に手を染めないような気もしますが。
土井 そうですね。「お前ら、おれを捕まえれば給料が上がるんだろ」などと悪態をつく奴もいました。しかし逆に、協力者として情報を入れてくれるような人間もいるのです。「おれの知り合いが今、こんな動きをしてるよ」と。
誉田 そういうコミュニケーションから、実際に更生する被疑者もいるんですか?
土井 いますよ。「今、こんな仕事をして真面目にやっています」とか、「家庭を持ちました」「子供が生まれました」などと言って近況を伝えてくる人間もいました。
誉田 それはいい話ですね。
土井 ほんの僅かでもそういうことがあるとこちらも嬉しくて、励みになりますよ。
意外と古い特殊詐欺の歴史
誉田 ところで、こうして世の中にオレオレ詐欺が蔓延する以前は、警察はどのような事案を特殊詐欺として扱っていたのでしょうか。
土井 類似した事件はけっこう古くからあり、大正時代に電報を使って騙そうとした事案もあったと聞いています。
誉田 なんと。でも言ってしまえば単なるなりすましなわけですから、詐欺としては意外と古典的なのかもしれませんね。
土井 オレオレ詐欺という名称で浸透したのは21世紀になってからですけど。警察が扱う特殊詐欺は他に、架空請求詐欺や融資保証金詐欺、還付金詐欺などがあります。
誉田 特殊詐欺は、被害者から被害届が出て初めて警察が動き始めるものなのですか?
土井 パターンは様々です。まず、被害届による手口分析捜査から犯行グループを突き止めて摘発するケース。このほか、アポ電による現場設定での検挙活動や取調べによる犯行手口の解明や共犯者の割り出し、資料収集など、あらゆる手法を使って捜査をしています。
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