中田のトスが育てた名選手たち
「思うように身体が動かない以上、以前のように自分の力でチームを何とかしてやろうとか、自分のペースに相手を巻き込んでやろうというのではなく、アタッカーをいかに育て、いかに気持ちよく打たせるかを考えるようになった。この選手は今何を考えているのか、どういう状態でいるのか、目を見たり、気持ちを読んだりして気をつかうことが、私の仕事と悟ったんです。『おはよう』と言った瞬間から、人の観察を始めました。もし、怪我をしていなかったら、ずっと自分のペースでトスを上げていたかも知れません」
中田のトスに育てられた選手は多い。サウスポーの大林、ソウル五輪シーズンに入社した吉原知子、白井貴子2世といわれた福田記代子、バルセロナ五輪1年前に入社した多治見麻子、全日本で顔を合わせたイトーヨーカドーの斎藤真由美、益子直美、ダイエーの山内美加など、80年代後半から90年代にかけて活躍した選手らは中田に操られた。
たとえば、吉原をこうして育てたという。
「同じコートに立っていても、見ている方向はそれぞれ違うんです。だからいきなりこっちに引っ張るのではなく、まず私が相手の懐に飛び込む。吉原の性格を知るために、同じ部屋で暮らしたこともあります。すると彼女は、意外とのんびりしていることが分かった。吉原をゲームで使って生かしていくためには、どういう場面で使ったら伸びるか、厳しい場面で使っても決める精神力はまだないなとか、トスを上げながらチェックした。その結果、まずはいいところで使って、自信を持たせなければならないと思った。だから、新人の頃にはおいしい場面でずいぶんトスを上げました」