デルタ型最強説?
感染力や重症化リスクが高い新たな変異ウイルスが出現することは脅威です。が、それらは際限なく繰り返すわけではありません。感染力や重症化リスクの上昇には限界があります。感染力や病原性が強くなり過ぎると、潜伏期間が短くなり、すぐに症状が出て、さらに感染者を死亡させてしまうからです。
症状が早く、重く出ると、自然と行動が制限されるためウイルスは別の宿主に感染することができず、宿主の死と共に消えてなくなってしまう可能性が高くなるのです。エボラ出血熱がその典型で、病原性が非常に高く感染者がすぐに動けなくなってしまい、コロナウイルスのようにウイルスを広げる余裕もないので、隔離によって感染拡大を防げます。
研究者の間では、デルタ型最強説を唱える人が少なくありません。デルタ型変異ウイルスは感染力が強い上、重症化率も高いウイルスですが、デルタ型以上に症状が早く出て、すぐに重篤化した場合、感染者が瞬く間に動けなくなってしまったり、場合によっては死に至ってしまったりということになる可能性が高いと推測されるからです。
SARSは収束し、新型コロナは収束しないのはなぜか?
新型コロナウイルス感染症は2020年初頭から世界的に拡大し、2年が経過しても一向に収束の兆しを見せません。それに対し、2002年11月ごろに中国南部を起源に発生したSARSは、香港やカナダなどに感染拡大したものの翌2003年7月にはWHOが封じ込めの成功を発表し、8カ月足らずで収束しました。
SARSはウイルスの感染力が強く病原性も高い感染症ですが、なぜ収束したのか不思議に思う方もおられると思います。結論から言うと、SARSが早い段階で収束したのに対し、新型コロナウイルスが世界に拡大してしまった原因は、初動の違いに他なりません。
新型コロナウイルスの場合、中国当局が1カ月近く武漢での感染症の流行を公表せず、武漢を封鎖しただけで、その他の地域からの海外渡航を禁止しなかったため、中国人や中国滞在者の渡航により、世界中に拡散してしまったと思われます。
一方、SARSの際には、中国当局が積極的に感染症の流行を公表しなかったのは今回と同じですが、WHOの感染症ネットワークがいち早く中国での感染症の流行をキャッチ、初期段階で徹底した封じ込め対策を実施して、それが成功したのです。
しかし、じつは、SARSのみならず、感染症流行の世界的な監視の役割をはたしているのはWHOではなく、米国のCDC(疾病予防管理センター)です。
私は20年近く前にCDCを訪れたことがありますが、その情報センターには巨大なデジタルパネルがあり、画面には世界中の情報がリアルタイムで映し出されていました。SF映画の世界だけと思っていた「情報収集システム」が整備され、監視していたのです。トランプ政権になって、このCDCの感染症対策部門の予算が10%もカットされていたことが、米国での感染対策の甘さにつながっていたのではと民主党から批判されていました。情報が集まっていても、それに耳を傾けたのかどうかは疑問ですが。
SARSを教訓に、中国政府が新型コロナウイルス感染症の流行を初期段階で世界に公表し、徹底した封じ込め対策を実施していれば、これほど世界に拡散することはなかったと思うと、残念でなりません。