文春オンライン

連載日の丸女子バレー 東洋の魔女から眞鍋ジャパンまで

「気持ち悪い」「相手を舐めているんでしょ」“日本根性バレーの終焉”を象徴する〈コートの中の笑顔〉

日の丸女子バレー #35

2022/04/16
note

カリスマ監督はいらない

 東京五輪で金メダルを獲得した東洋の魔女をベースにし、日本女子バレーが脈々と受けついで来た“根性バレー”を、IT機器を駆使したデータバレーに変貌させた――しかし、眞鍋はそういう見方に異論を唱える。

「いや、やっぱり勝負の分水嶺は、データとか戦術じゃなく、選手の精神の強さです。そこは変わっていないと思いますよ。ただデータを活用すれば、抽象的な精神論より具体的、なおかつ正確に伝えるためのメッセージが込められる、ということなんです」

 それでも女子バレーは変わったといえる。

ADVERTISEMENT

 長年、女子バレーにはどこか根性論から来る湿っぽさが付きまとっていた。選手は自分の個性を発揮することなく、指導者の特訓にひたすらついていくという構図は確かに受け継がれていた。アテネ五輪組は選手主体のチームだったと言えなくもないが、五輪の出場権を獲らなければならないという責務を背負っていたせいか、どこか悲壮感が漂っていた。

 ところが09年に眞鍋が全日本の監督に就任して以来、チームが生き生きと躍動し、選手らの表情にも笑顔があふれてきた。04年のアテネ五輪から出場しているセッターの竹下佳江、エースの木村沙織、そして大友愛ら中心選手だけでなく、若手選手も伸び伸びとコートに立っている。木村などは笑みを浮かべながらアタックに入っているくらいだ。

ムードメーカー的存在だった木村沙織選手 ©文藝春秋

「自分では意識していないんですけど、テレビ中継で私のアップの表情を見た友人や知り合いからよく指摘されます。『気持ち悪い』とか『相手を舐めているんでしょ』って。そんなつもりは全くないのに……」

 なぜこれほどまでに雰囲気が変わったのか。眞鍋がにやりとしながら言う。

「僕は以前の女子バレーの雰囲気は知りませんけど、日本は長い間、カリスマ監督といわれる指導者を起用してきた。でも僕は残念ながらカリスマにはなれない。だから、優秀なコーチ陣の力を借りる必要があったし、何より選手が自立し、自分の頭で物事を考えられるようにならないと、世界の強豪には太刀打ちできないと考えたんです。僕が最もエネルギーを注いだのはそこでした」

 そしてこうも言う。

「僕は多分、世界で1番選手と対話してきた監督じゃないですかね。これだけは自負しています」