「そう思うよな。今思えばすごくそう思う。でも、当時はそんな風に幻覚見ることがあるのかもって考えすらなかったから、すごく怖かったなぁ」
そうぼーっと語るTさん自身になにか不穏な気持ちを感じ、なんとなく次の言葉が出なかったSさん。
「でも、続きがあるんだよ、この話。それから数年して小学生の低学年になったときに、友達の間で学校の怪談みたいな本が流行ってさ。家に帰ってから姉ちゃんにそのこと話した流れで、今言ったドアの話したんだよ」
「……からかわれた?」
場を明るくしようと少し冗談めかしてそう言ったSさんだったが、Tさんの返事は意外なものだった。
「なんかね、姉ちゃんも見たんだって、ドア」
家で起きた奇妙な現象
お姉さんが中学生だった頃に、Tさんと同じように風邪をひいて自宅で寝込んでいたことがあったそうだ。
日中に寝てしまったことで、彼女も夜になっても寝付けなかった。熱も下がらず、風邪薬でも飲もうかと、布団から出て1階のリビングに降りていこうとした。
部屋を出て、薄暗い廊下を歩き、階段付近の電気をつけようとスイッチに手をかけたとき、ふと階段の踊り場に月明かりに照らされたドアがあったそうだ。
当然、普段はそんなところにドアはない。スイッチに手をかけたまま彼女が固まっていると、ドアが開いたという。
ガチャ。
Tさんのお姉さんも、直感的にそれを見てはいけないと感じ、さっと自分の足元に目線を移した。
ドアが閉まる音はせず、スススッと開く気配がする。
そして、トッ、トッ、トッと裸足と思しきその足音は、1階に降りていったそうだ。
Tさんのお姉さんは音が去ると慌てて部屋に戻り、忘れようとしたという。
だが、この家で起きた奇妙な現象は、“ドアの出現”だけでは収まらなかった。
蝉の音だけが響く夏の午後
それから数年が経ち、Tさんが中学2年生になったとある暑い夏の日にそれは起きた。