Tさんが汗を垂らしながら夕方ごろに学校から帰ってきたとき、ちょうど入れ違いで母親が夕飯の買い物に出かけようとしていた。
「そんなかからないけど、誰か来たらあれだから家に居てね。お姉ちゃんもまだだから。来たらちゃんと出なさいよ」、そう小言を漏らしつつ母親はバタバタと出かけていく。
なんでこうも人のことを信用しない物言いになるのかな……、そう小さな不満を漏らしつつ、Tさんはリビングのテーブルに荷物を置き、洗面所で顔を洗った。
ジジジジジジ、ジジジジジジ。
蝉の音だけが響く夏の午後、テレビの消えた薄暗い家。
Tさんは気分転換にアイスでも食べようと冷凍庫を開けて、冷房の効いた部屋のソファでアイスにかじりついた。
トンッ、トンッ、トンッと裸足の足音
火照った体が冷えていく心地よさを感じているうちに、アイスはすぐなくなった。もう1本食べようかとも思ったが、姉が帰宅してそれに気づいたときが面倒なので、ここは我慢して部屋に戻ろう。……そう思い、荷物を手に2階への階段を上がろうとしたそのときだった。
階段の上から誰かが降りてきていた。
え……?
父も帰ってきていないし、姉ちゃんもさっき母がまだ帰宅していないと言っていた。誰だ? 泥棒? いや、じゃあなんで母は気がつかなかった?
そう瞬時に自問しているうちに、トンッ、トンッ、トンッと裸足の足音が踊り場のほうに降ってきた。
瞬時に視線を足元に移して固まっていると、トンッ、トンッ、トンッと足音が駆け足気味になり、あっという間に自分の横を通り過ぎていった。その瞬間――
「こんにちは」
そこでTさんの意識は途切れた。
(文=TND幽介〈A4studio〉)