夜中に尋常ではない大きさの物音が
「先輩! 先輩!!」
Fさんの叫び声で目を覚ます。
辺りは真っ暗。真夜中だった。
Yさんは急に起こされて、何だか夢を見ているような感覚に包まれていた。
「え……なに?」
「何ですかこの音、先輩!?」
「音って――――」
そのとき気がついた。尋常ではない大きさの物音が響き渡っている。
ドンドンドンドン! ドン!
ガサガサガサ……ガサガサガサ!
ガタッ! ガガガガガガ!
こんな夜中に起こっていい騒音ではなかった。それがどうやら1階から聞こえているようだった。
「え、えっえっ、なにこれ? 誰か来てんの?」
「来るわけないですよ! さっき突然鳴り始めたんです」
バタバタバタバタ!
ビーーーーッ!
「え! ちょっ、ちょっと何これ!」
「いやぁ、怖い、怖い!」
騒音は前触れもなく、2階のFさんの部屋の外からも鳴り響き始めた。
「カッターでダンボール切ってない、これ?」
2階から聞こえるのは、ダンボールをカッターで切ったり、ガムテープを引き出したりする音に聞こえた。そして1階からは家具を動かすような物音。
例えるなら、業者が大人数入り込んでの引越し作業中とでもいうべき音だった。
「どうしよう、どうしよう先輩……」
Fさんはパニック状態で、Yさんも動悸がすごい速さで鳴っていた。
「とりあえず、様子見てくる……?」
「え?」
右手にFさんから用心のためにと手渡された、重めのガラス製のペン立てを握りしめ、左手で携帯のライトを起動する。
バタバタバタバタ!
ビーーーーッ!
「合図したらドア開けて……」
二人は意を決し、部屋のドアを開けた。
「音してるのに電気点いていないのおかしくないですか!?」
薄暗い廊下には誰もいなかった。そして、気がつけば2階の音は止んでいた。
だが、依然1階からは騒音が鳴りつづけている。
振り返るとFさんは怯え切った表情。自分が何とかするしかない。
Yさんは向き直り、1階に続く階段にゆっくり向かい出す。それを見てFさんは止めるような声色で背後からこう叫んだ。
「え、先輩! でも! 下、何で真っ暗なんですか!? 音してるのに電気点いていないのおかしくないですか!?」
なんで、そんな嫌なことに気がつくんだこの子は……。
「とりあえず見て来るからじっとしてて……!」
「でも、無茶ですよ――」
音がパッタリと止んだ。
「……え?」
「なに? えっ?」
5、6人がドタバタと走り回っていたような音は、1階からもしなくなった。
Yさんはしばらく固まっていたが、このまま何もなかったふりをして部屋に戻れるはずもない。
頭に響くほど速くなっている心音を感じつつ、Yさんはゆっくり1階に降りていった。
(文=TND幽介〈A4studio〉)